「仕方ない」とは言いたくないが、
仕方ない場面は人生たくさんある。
ドイツ・オーストリア、
旅をすればトイレに入る。
宿泊先のトイレもあれば、
街中の公衆ももちろんある。
すると気づく。
便器の高さに。
男性トイレの立ってする、
あの「小の方の便器」である。
位置が異様に高い。
背丈の平均が違いすぎる。
まぁつま先立ちまでいかないが、
こちらの人々の"普通"が違う。
「仕方ない」と思うのは、
努力でどうにもならぬと悟る時。
ブロンド髪の女性、
鼻が高く手足も長い。
カフェのウェイターの男性、
俳優のような笑顔と出立ち。
見た目の差別や偏見は嫌いだ、
しかし美しいと思う気持ちは正直だ。
アジア人の僕が、
ショーウィンドウのガラスに映る。
黒髪で手足は短く、
ほりが浅く瞳は黒く。
そこにコンプレックはないが、
やはり違うのだから仕方ない。
「見た目なんて関係ない」
そう言い切るほど若くない。
つま先立ちになりそうな、
公衆トイレの小便器。
見上げるような背丈の人々が、
颯爽と行き過ぎる街の雑踏。
ふと「魂」と言う言葉がよぎる。
シャンと背筋を伸ばそうと。
持って生まれた魂に、
「胸を張れ」と自分が言う。
いいんだ僕で、
わたしはわたしで良いのだ。
魂が歩く。
燃えるたいまつを胸に掲げ歩く。
ガラスに映る自分に頷く。
「わたしはわたし」だと。
埋もれそうな人々の息遣いの中、
わたしと言う存在がきらめく。