冷蔵庫は、その家庭の心臓。
リズミカルに脈打てば、住む者達の人生も脈打つ。
さらにその心臓を取り囲む台所が健全であれば。
住む者達の未来は明るい。
野菜の切れ端がラップに包まれ転がる。
奥には何年も使っていない調味料。
賞味期限の切れた食材。
黄色くなったマヨネーズ。
たまに人の家にお邪魔し、台所に立つことがある。
当然、冷蔵庫を開ける。
その取っ手を掴み、オープンするその瞬間。
その時、小さな覚悟がいる。
なぜなら、その住人の私生活を目の当たりにするから。
そっと勇気を持って開ける。
どんなに部屋が綺麗でも。
身なりや職業が鮮麗でも。
冷蔵庫を覗けば、その人がわかる。
「食べることは生きること」
当たり前のようだが、人生の核心だと思う。
肉体を作る上でも、精神を作る上でも。
相手を慮る心。
想像力と好奇心。
野菜や肉は同じ生命。
大地への恩恵と尊厳がそこにはある。
料理は愛の結晶だ。
子供の教育を問われる昨今、食育が一番の近道だと思うのは僕だけだろうか。
勉強する場所は学校だけではない。
「畑をやらないか?」
そんな話が僕に持ち込まれた。
太陽の下で自分と向き合うのもありかもしれない。
次なるステージへの手招きかもしれない。
新鮮に実る野菜を冷蔵庫に入れる。
漬物、味噌汁、揚げ物、煮物。
背中ごしに湯気立つ料理が歌い出す。
大地を讃えるように。
冷蔵庫は、その家庭の心臓。
リズミカルに脈打てば、住む者達の人生も脈打つ。