カフェでお手伝いさせてもらうようになり、もうすぐ一年が経つ。
土曜日だけの心のオアシスのようで、未だこの数時間が愛しくて仕方ない。
カフェのオーナーのれいこさん。
少しお客さんが引いた時、キッチンでよく二人立ち話をしたりする。
世間話や、観た映画の話。
くだらない話から深い話まで。
「えっ、れいこさんって今までしたデートで一番印象的なデートってどんなのでした!?」
よくある女子会のようなノリで、過去の恋愛の話なんてのもチラホラ。
軽いノリで聞いたが、結末がれいこさんらしい素晴らしいものだった。
「当時お付き合いしていた彼が、デートで夜景の綺麗なところに連れてってくれたのね」
ふむふむ…デートじゃよくあるパターン。
「けどね、全然わたし楽しくなかったの」
意外…なんでなんで?
「彼もその雰囲気に気づいてわたしに聞くの、退屈?って」
ほぉほぉ、そりゃ気になるよな彼氏なら。
「でね、わたし思ってたこと言ったの」
うん、何を何を!?
「人んちの家の明かり見て何が楽しいの?って」
ぶわぁぁあ。
笑った笑った。
大笑いした。
夜景は人んちの家の明かりかぁ。
いやぁ、正にその通りだよな。
「笑うけど、本当にそうでしょ?夜景って人工的な明かりでちっとも綺麗に思わなかった」
さすが、れいこさんの感性は的を得ている。
受け売りの美しさに流されず生きてる。
「でね、その彼が素敵だったのはそこからなんだけど…」
ほうほう!
「彼も、わかったわかったって言って次のデートで標高の高い所まで連れてってくれたのよ」
うわ〜もしや!
「もーのすごーく星が綺麗な場所に連れてってくれて、それには感動したなぁ。彼の気持ちにも」
はぁぁ。
素敵な話や。
そうだよね、人が生み出す明かりより。
真っ暗闇に浮かぶ星の明かり。
そうです、本物を知ってる人は本物にしか感動しないのよ。
琴線が嘘っぱちじゃ響かないんだ。
れいこさんが営むMellowCafeは静かな緊張感が漂っている。
鋭い人は気づくと思うが、柔らかさの中に芯がある。
それはれいこさんのプライドなのかもしれない。
美に対するプライド。
優しさや愛に対するプライド。
都会は美しい場所だ。
住み心地よくできている。
けれどたまに思う。
「ここは、人間を飼う檻のない動物園だな」と。
虚像の森に囲まれ。
虚像の明かりに包まれ。
虚像の獲物を追い。
虚像の体温を求め彷徨う。
どんなお金を積もうが、金で買える内は虚像。
人間動物園の通貨でしかない。
自然は金で買えない。
宇宙は金で買えない。
本物は金で買えない。
本当の美しさは金で買えない。
街の夜景が綺麗な場所より。
真っ暗闇の星の綺麗な丘。
ロマンチックとはこう言うことを言うんだな。
本物を知ってる男と女だから、見られる美があるんだな。
真実はいつも人の手の及ばない場所にある。
真実はいつも自然の営みの中にある。