茶道を習いはじめて4ヶ月。

まったく覚えられない。
けど、それが面白い。
 
閉ざされた空間で響くのは水の音。
無骨な釜から湯気が立つ。
 
たった一杯のお茶に、何十もの作法を用いてもてなす。
客人と交わす無言の会話。
 
「柄杓(ひしゃく)は下から三分の一の位置で握る」
「お湯は釜の下の方から汲む、水は上の方から汲む」
「はい、ちゃんと左手で扱ってお茶碗は置く」
 
先生からのアドバイスに頭がてんやわんや。
人生初めての名詞の数々に混乱。
人生初めての動作の数々に錯乱。
 
茶道に飛び込んだのはいいものの、果たしてこのままでいいのやら?
そんな疑問に囚われつつも、毎週通い続けている。
 
足は痺れるし、覚えも悪い。
しかし、何だろうこの清々しさは。
まるで毎日の雑念を脱ぐような、心が静かになるような。
 
茶道は形から入って形で終わる。
個性を消すことで個性が浮き彫りになる。
矛盾のようで、とても自然。
そこに答えなどなく、終わりもない。
 
人生も同じなのかもしれない。
人は上や下と気にするけれど、そんなものは初めからない。
自然に生きるのが自然なのだ。
 
「小さな宇宙」
まさに茶道は近くて遠い。
狭くて広い。
矛盾を孕んだ自然体。
なんなんだろ、いったい。
 
僕の心は週に一度、無重力となる。
正座で足を痺らせながら、畳の宇宙で旅をする。
 
photo by atsuko.aoki