近所の野良猫を見つけるでもいい。

海外のドラマを徹夜で見るもいい。
食べたトンカツが「美味い」でもいい。
春の予感を風に感じるもいい。
ささいな冗談で知人と笑うでもいい。
汚れた車を洗車するでもいい。
 
人が元気になるのに必要なものは、決して大きな出来事じゃない。
小さな、粒のように小さな幸せのカケラたち。
砂金のようにそれは、サラサラと空っぽだった心に降り積もる。
 
人生で恐ろしいのは不安でも、悲しみでもない。
自分を信じられなくなることだ。
派生したシミは、黒く辺りを染め上げる。
そしていつか飲み込まれる。
無力感と言う闇に。
 
そこから這い出る唯一の方法、それは"静かに時を待つ"こと。
いつ終わるかもわからぬ時を、ただじっと待つ。
呆れるほどの空虚さに目を細めていると、細かな砂金が舞うのが見える。
それはやがて辺りを覆い、眩さを秘めてゆく。
 
季節が巡るように、心も四季を繰り返す。
春から夏へ、秋から冬、そしてまた春へ。
陽だまりを蓄えて膨らむ蕾。
かすかな冬のぬくもりを集め、心は春へ向かう。
 
「一人じゃない、その寒さをじっとこらえているのは」
 
小さな幸せのカケラが天から舞う。
キラキラと、サラサラと。
降り積もるのをじっと待てばいい。
 
元気になるとはそう言うことだ。
立ち上がるとは、そう言うことだ。