彼女は恋に落ちた。
相手は同性である"女性"だった。
 
はじめは違和感から始まった。
その人に会うたび惹かれ、想いは確信に変わる。
「わたしは彼女を愛してる」
 
お互いに想い合い、時と共に深まる関係。
しかし彼女は悩む。
「たどり着く場所はどこだろう?」と。
 
同性での結婚が許されぬ中、まるで二人は流され浮かぶ川の落ち葉のよう。
戸惑いながらも、手と手を固く握り合った。
 
ある日、彼女は悩みを打ち明けようと決心する。
それは生みの親の母にだった。
子供の頃からいつも温かく受け止めてくれた母。
「お母さんなら、きっとわかってくれるに違いない」
 
ふるさとに帰り、彼女は静かに母に溜まり込んだ想いを吐露する。
しかし、母から返ってきた答えは彼女をどん底に突き落とした。
「あなた病院へ行きなさい!」
 
彼女は母親に嗚咽まじりで叫ぶ。
「普通じゃないと、お母さんの子供じゃないの!?」
「子供を生まないと、お母さんの子供じゃないの!?」
その言葉を残し、彼女はふるさとを絶った。
親との絶縁を決めた。
 
行き場のない感情は、女と彼女の間にも距離を生むようになる。
「この恋はどこへ向かうのだろう?」
愛する想いとは裏腹に、終わりのないパズルをするようで虚しさが二人を包む。
激しく求め合うのは、終わりを感じ始めていたからかもしれない。
 
「同性を愛するとは、どこにも属さぬ
    名前もない二人になることなんです」
 
彼女達はある日、別れた。
二人は互いの暮らしに戻り、彼女は親とも仲直りする。
その後数年、彼女はその失恋をひきずったと言う。
親は何もなかったかのように、その話題には一切触れてこない。
「それが悲しい」と彼女はこぼした。
 
さまざまな人がいる。
さまざまな過去がある。
人生の深海を見た者は綺麗な目をしている。
それはきっと、孤独と言う真珠を瞳の奥に宿すからなのだろう。
 
別れ際、会釈する彼女の顔はハツラツとしていた。
「またいつか」
そんな当たり障りのない約束をして、小さな背中は夜の人波の中へ消えていった。