日々生きていれば、嬉しいことも悲しいこともある。

感情は光と影。
どちらか一方だけが存在することはできない。
 
「今わたしは人生のどん底、辛いです」
大好きだった彼と別れ、会えないことが辛くて仕方ないと言う女性。
 
なんと声をかけたら良いかためらう。
季節が変わるように、ただその得体の知れない闇に身を預けるしかないのだろう。
 
「大丈夫」
「きっと良い出会いがある」
「クヨクヨしないで」
 
どんな前向きな言葉も、彼女には無意味である。
それは同じく失恋や挫折した経験ある僕だからよくわかる。
 
そんな時、救うのはやはり自分しかいない。
感情を味わい切るしかないのだ。
ブルーな気分に身を浸し、「もう沢山だ」とその気分に飽きるしかない。
飽きるまで悲しみきるしか立ち直れない。
 
いつも想像するのは、深海に潜り、海底を蹴り上がってくる風景。
苦しみに耐えながら、感情を味わい尽くす様はまるで息を止めるダイバーだ。
 
幾度となく、人はそんな孤独の海に潜る時がある。
その度に人は成長し、優しくなる。
引きこもり、ひとりぼっちの旅に出る。
まるでサナギとなり成虫になる時を待つように。
 
悲しみも人生の大切なワンピース。
孤独も人生の大切なワンピース。
虚しさも、やるせなさも人生の大切なワンピース。
 
輝かしい時だけが人生じゃない。
弱り切った体で、死さえも考える瞬間も人生の一部なのだ。
 
この街のどこかで、今日も彼女は泣いている。
終わりない悲しみに身を震わせながら。
僕はじっと見ているしかない。
逃げずに真っ直ぐ孤独に立ち向かう姿に敬意を表し。
 
上がってこい。
あなたの海底はもうすぐだ。
悲しみきって、涙の海を上がって来なさい。
あなたならできる。
それが生きるということだから。