手紙を書くのが好きだ。

決してうまい字ではないが、我ながら一種のヘタウマ 、

いや「なかなか個性的な字をしている」と慰めている。

 

ラブレターを、初めてポストに入れた日のことを思い出す。

何を書き連ねたか定かではないが、

「好きだ」という想いは確かに記した。

 

夜には魔物が棲んでいるのだろう。

高まった感情は一線を越え、

遥か遠くの街に住むあの子の影をちらつかせた。

いてもたってもいられない。

僕は机に向かい何度も何度も書き直しては

極上のラブレターをこしらえた。

 

「ポトっ」

 

小さな葉がこすれ合う程の音を立てて、

白い封筒は赤いポストに落ちていった。

夜空に浮かぶ星々は歌うように瞬き、

僕の愛の行方に賛歌を送っていた。

 

浮き足立ち帰る道すがら、ふと我にかえる。

「まてよ…」

 

夜の魔物の魔法が徐々に解け、

冷静で至って客観的な感情が姿を現し始めた。

急に青ざめる顔。

情熱でほだされた告白文が ”恥” という漢字一文字に変化し足を止めた。

 

振り返り走る。

赤いポストは目と鼻の先、

投函口に手を突っ込み手紙を取り返そうとする。

しかし、時すでに遅し。

手の甲も入らない狭いポストの口を前に佇む。

”恥” という思いが今度は ”後悔” という字となり胸を締め付けた。

 

次の朝は、より最悪な気分だった。

冷静さにより磨きがかかり研ぎ澄まされ、

「バカバカバカ」と自分の頭を叩きたいほどの後悔が押し寄せる。

 

夜には魔物が棲んでいる。

それ以来、僕の心に情熱の炎が燃え盛る度、

消火器を持ったもう一人の自分が居つくようになった。

 

あの手紙を書いた彼女からの返事はなく、

僕の恋は泡のように消えていった。