七十六の年ゆくときに自ら心ゆるびつつ厨子の塵ふく



後幾年後幾年と生きて遇ふことのなからむ御遠忌を待つ


腕あげて力誇示するスピーチに先進国の英知は見えず



保育所より電話かかりて発熱の癖づきし子を迎へにゆくも



走り出して間もなく靴の抜けたりと初運動会のさまを聞くはや

ケアルームで貧しき話せし縁にクリニックより届く賀状数枚



暁闇を点滅しゆく機影見て再び眠る十五分ほど



事務用に建てし離れにさしあたり要る物まとめ吾ら移りぬ

勤務地の佐多より送りくれしダチュラ年々咲くを君は亡きかも



寒くなりて歩み怠る二三日に向こうの山の枦紅葉過ぐ



寒桜ふふめる下に椅子置きて妻に刈り貰ふ白く薄き髪を

年々に戸数減りゆくわが寺の今年の割当は百六十万こゆ



後九年この額で納金せよといふ聖人遠忌も吾におぞまし



いちゃう落葉つめて黄の袋十余り軒端に並べ次の週待つ

宵々に遅るる月を子と待つにこよひは東南に暈を冠れり



用ありて吾ら出で来ぬ僧一人老婦人三人に寺を預けて



体育会があれば町中が空になるそんな過疎地となってをります


一つ聞けば一つ忘れて代金と薬に行き戻る調剤薬局



セイタカアワダチ草枯れて黒ずむ河川敷憎まれ草も盛り短し



切り過ぎしかと悔みたる極楽鳥花巻葉のあひに赤く荅めり

苔張りて武骨に枯れし枝仰ぐ木にも寿命のあるかと思ひて



寺つぎて四十九年目の改選に漸く総代より年長となる



子の嫁となるかもしれぬ人来るにためらひにつつ幼抱かれぬ

二人にても参りくるるを喜びに彼岸の法話す今日は坐りて



幟立つ木市は車より見るのみに歸りきて移す木草二株



青々と茂る葉の間に柚子熟れて一つの枝は地に触れむとす

夏過ぎて涼しくなれるこの日頃み堂の花の保ちよくなりぬ



草とるとこころざし来し老婦人にナナカマド切られ吾亦紅抜かる



案内状出さねど参りくる少人数たのみて細々と彼岸会続く