歴史ドラマ 同伊トンイ 考 | 気になる映画とドラマノート

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 ドラマの「トンイ」では、トンイは賤民の子ということになっている。


 あくまでも推測でいうと、たぶん史実のトンイはムスリ(水汲み、雑用係り)ではあったが、それは職能のことで、出身が賤民というわけではなかったと思われる。もっとも、トンイの息子にして、後のイサンの祖父英祖は、母がムスリだったこと(つまり、少なくとも両班出身ではなかったから、なにかと墓なども軽く扱われたことに腹を立てていた)をきにかけていたという。


 わかっているのは、元の職能だけで、賤民だとされているわけではない。


 ところで、日本では「トンイ」、「チャン・ヒビン」、「女人天下」、「王と妃」などのような正室派側室派に重臣たちが分かれての世継ぎをめぐる派閥抗争はないのだろうか。


 とんとそういった話をドラマにした例を聞かないのだが、それは日本にそういう例がないから、ドラマも無いのか、それとも、史実はあるが、ドラマ化されないだけなのか。そんな疑問を持っていたら、ありましたよ、日本にも、まったく朝鮮王朝と似たりよったり、ましでもなんでもないまったく同等なんでした。


 明治維新直前、西郷隆盛がまだ少年とか青年という時期、江戸の三田、大工棟梁籐左衛門の娘お由羅というのが近所でも評判の利発にして美女。本人もその自覚があったらしくて、せまい世間にいたくなかったらしくて、江戸薩摩藩邸に奉公に入った。そこで、薩摩藩主島津斎興の側室にめしあげられる。


 このお由羅はちょうどチャン・ヒビンや「女人天下」のキョンビンのように、たちまち自分の勢力の重臣派閥を作ったらしい。そのやりかたは、朝鮮のそれと同じ。お由羅が藩主に頼んでだれだれを(賄賂の得られる)役職に就かせる。賄賂をもらった藩士は賄賂の一部を由羅に渡す。こうして集まった政治資金をもとにさらに派閥の重臣を増やしていく。


 派閥を増やしてどうするかというと、正室の嫡子がもし早死にすれば、自分の実子が藩主になれるから。


 このあたり、イサンの貞純大妃やファワンと発想がなんら違わない。


 そして、チャン・ヒビンもキョンビンも、毒殺と呪殺を試みたように、日本の薩摩藩、お由羅一派も、まったく同じように世子の息子を六人までもじわりじわりと毒殺した嫌疑が強くあるという。そして、祈祷による呪い殺しの祈道の者まで登場しているのは、朝鮮と変わらない。


 そして、由羅派掃討計画が発覚したとき、由羅に肩を持つ藩主は、反由羅派を切腹、12名、遠島30名と処断した。


 さらに、幕府にこうした内情を暴露しようとした藩士については、墓が暴かれ、竹製ののこぎりでさらに切り刻んだ。・・・・つまりなにからなにまで日本の江戸時代も、陰惨な抗争をしたこと、朝鮮王朝となんら変わることがなかったのであった。


 三田村鳶魚「薩摩藩お由羅騒動」による。