前情報なしに、観たこの映画、期待半分といったテンションでゆるりと観始めて、最初30分ほどは、B級映画、火曜サスペンス風、「いつものサスペンスドラマ」風なドラマかなと思って観ていたのだが、40分あたりから、様子が違うことに気がついて、そこからは、これはただならぬ作品だと思って観ていた。
詳しい感想は後述するとして、見終わってから、調べたこの作品の基本情報は次の通り。
オム・テウンは、「復活」「魔王」で人気を博したものの、2008年まで、映画では主演をやったことがなかったのだという。
「私たちの生涯最高の瞬間」を観ていたので、たしかにそこでオム・テウンは、ちょい役だったのだが、てっきり、特別ゲスト的な扱いで、本来彼は主役級だろう、と思っていた。ところが、実際に、オム・テウンは2008年まで助演しか、映画では経験していなかったというのだ。
そして、キャリアとしては、この「携帯電話」が初主演作品となる。
個人的には、反日色が強いテレビドラマながら、(びくはとても寛容なのだ政治イデオロギーはおいといて、一応は観るのである)演技は上々の主演パク・ヨンウと主役級ツートップで、ダブル主役に、パク・ソルミ、キム・ナムギルが助演で支え、「シンデレラのお姉さん」「タムナ」でブレイクする前のソウがパク・ヨンウの妹役で出演しているから、いまにして思うと十分個人的には、オールスター作品だ。
監督のキム・ハンミンは、2007年に「極楽島殺人事件」という実際にあった事件を素材にしたサスペンススリラーを撮っている。
(僕としては、「携帯電話」にこめられた監督の姿勢にほれ込み、すっかりメッセージも理解した気になっているので、この「極楽島殺人事件」も、ぜひとも観たいものだと思う。
なお、「極楽島殺人事件」にも、「携帯電話」にも、パク・ソルミが出ている。その辺も、まったく、この監督とは波長が合うといわねばなるまい。
さて、「携帯電話」の良さだが、パク・ヨンウの演ずる量販店の主任(しがないサラリーマン)とオム・テウンの若き芸能プロダクションの社長のいざこざとそのこじれ、がもつれにもつれ、エスカレートしていく。
そして、アメリカ映画の古典的名作「恐怖岬」(「ケープ・フィアー」としてリメイクされた)のように、粘着質に復讐と怒りが相互に爆発する展開になっていくのだが、韓国映画「携帯電話」が見事なのは、パク・ヨンウのしがないサラリーマンが「実直にまじめに生きてきたことがわかる風貌に描かれ、そして、彼はいま、脳梗塞入院している老いた母親がいる。母親は「身体がつらく、もう生きていたくない、と訴え、妹(ソウ)はおろおろと泣く。
男はどうすることもできない、しがない安給料のサラリーマンでは愛する母親をもっと大きな設備の整った病院に入れて、お金のかかる手術をうけさせることも、できない。
心配する妹を安心させてやりたい、しかし彼にはどうすることもできない。つらい「家庭の事情」を胸に秘めて少しでも昇進して少しはましな給料がほしい、課長になったと言って、母を少しは喜ばせてやりたい。しかし、思うようにいかない。
そんなふうに描かれている。
そんな鬱屈した暮らしのの中で男は(パク・ヨンウ)は、オム・テウンの携帯電話を拾う。彼ら二人には、本来接点はなにもないのだが、そこから皮肉な接点が始まる。
オム・テウンは、妻が浮気をしたと思って、妻を責め、不和になるが、妻の申し出を拒絶し、妻が何かいいたがっても、聞こうともしない。そうしているうち、オム・テウンの携帯電話に、経営する芸能プロダクションに所属する清純派女優のスキャンダル映像が、メール動画として送られてくる。謎の男(キム・ナムギル)はオム・テウンに動画を世間に公表されたくなかったら、金を出せと脅してくる。
オム・テウンの社長は敢然と、脅しにはのらないと断るが、話が終わって、しばらくして問題の携帯電話を紛失したことに気づく。
僕はこの作品は「恐怖岬」「暗くなるまで待って」のように、20年経っても30年経っても古びないだけの緊密で周到なキャラクター設定と人間同士のディスコミニュケーション性が強く表現された傑作だと思う。
パク・ソルミがさりげなく、さまざまな場面で言う、「話し合いましょ」という言葉がそれを示唆してもいる。
評価
ひさびさに、★5点満点の★★★★
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