中化神龍師は言われた…
「此の獄卒達に率いられ、軈て到着する場所が『閻魔の庁』と言う處だ。此処に閻魔様に当たられる天之目一箇之大神様が居られるつまり天之日子穂々出見之大神様の教令輪身に当たられる大神が、実は閻魔の庁の主に成る訳だな。」
真っ黒な城壁が広大な敷地を囲っていて、遠くから観ても荒野に忽然と立ちはだかる黒い四角の巨大な城壁(本当は黒く無いのだが、冥府が常に黄昏時なので真っ黒く見える)は冥府に在っても異様に観えたと稲津先生は述懐していました。
恐ろし気な獄卒達に連れられて歩む亡者達が彼処で何が待っているかと怖気付くのも良く理解出来ます。
兎に角、冥府には道路標識なんか有る訳も無いですから…「彼処は何ですか?」と獄卒に尋ねるだけの度胸を持ち合わせている人が何人居るか…。
例え話し掛けても黙って睨み返され、竦み上がり黙り込むのが関の山らしいです。

獄卒と言うのは兎に角恐ろしい限りだそうですすから、稲津先生が同行した方も只縮こまって歩いていた様でした。


《閻魔》と言うのは佛教的表現だと白日様は仰有って居られました。当然神道的表現では天之目一箇之大神様が此の獄卒達を統括している訳で、其の獄卒長が言う迄も無く牛王様に成る訳です。

『閻魔の庁』とは地獄の政庁が有る場所でもあるから、不思議と言えば不思議な事です。

何故なら地獄は幽界では無く霊界に存在するのに、閻魔の庁は幽界の冥府に確かに存在していると言う事実は霊界と言う世界の奥深さを語っています。


「此処には政庁が在って…御寺で言えば大堂伽藍の様な締め切られた、だだっ広い部屋が有ってな。

到着するや、此の部屋に一人ずつ放り込まれる訳だ。死者が又責め苦を受ける事に成る」

稲津先生が気が付いて「瑠璃鏡の有る部屋の事ですか?」と問うと、中化神龍師は頷かれた。

「そうだ。実は『瑠璃鏡』と言うのは一枚の鏡じゃあ無いんだ。部屋の辺り一面が鏡で覆われている鏡の部屋なのだな。」

稲津先生が後日某弁護士が瑠璃鏡を見せられる現場に立ち会った記録では、其の時の弁護士の様子を次の様に伝えて居られます…


"突然…前方中央から霊光が射し始めた。光が矢と成って襲い始める。至る所に突き刺さる。

「痛い!」と思わず霊眼を閉じる。

両の腕を両眼に当てて顔を伏せる。幽体が溶けんばかりに強烈な霊線が全身を痺れさせる。

痛い…緊張の極みに口が強張り全身に痙攣が走った。

霊線の流れは電流の数千ボルトに相当する。

衝撃波が爪の先まで走る。光が痛い。

跳ね返さねばと渾身の力を込めて堪える。

激痛から逃れる道は堪える事である。ジッと忍ぶ事である。

死に直面して病苦の激痛と闘った肉体の苦痛より酷い幽体の痛みは、光に向けて更に激しい。

何故、此の場で是程の激痛に堪えねば成らないのか…痛い…真に痛い…まるで死刑執行時の電気椅子…。

でも肉体的死は最早訪れはし無い…只、精神世界のみの激痛に堪えねば成らない。

明るい…増々其の明るさを増す。

其の度に痛い。

新たな激痛が全身を襲う。でも眼は開けられない。

そう思い込んでいるのに、辺りの光景が映り出した。"

此れが実際の『瑠璃鏡』である。

"閻魔の庁に在ると言われて来た、自らの罪業を総覧出来ると言う瑠璃鏡である。"

「そうだ。辺り一面が鏡に覆われていて、生前、自らの犯した罪業の総てが、些細な事も含めて、其の鏡に総て映し出される。」

"三百六十度球状に成った鏡の部屋に忽然と顕れ出した微妙な現象。

一つ一つ現象の趣く儘に自らの画いた過去の罪業の生活史が蘇る。

増々、魂が萎縮する。

余りにも露骨な想い出の数々がそっくり其の儘、瑠璃鏡のスクリーンに映し出される。"


「自らの犯した些細な罪業の数々に至る迄、目の当たりに見せ付けられて、死者は自らの良心の呵責に責め立てられれ、慚愧の涙を零し、後悔すると言う訳だ。

然し、もう遅きに失しているなぁ…。

次から次から、鏡に映し出される過去の罪業…眼を背ける事すら許されない…眼を閉じても見えるのだからな。

如何に度胸の有る者でも、此の瑠璃鏡の責め苦には参って仕舞う。

七転八倒の苦しみに責められて、只呻く事しか道の無い世界なのだ…。

其れも長く続く…繰り返し繰り返し、自分の犯した悪の所業が絶え間無く映し出されると言うのだからな…」

稲津先生「恐ろしい事ですね…」

「恐ろしい處だ。自分の犯した罪だけでは無いぞ。主護霊の犯した罪も、主護霊の主護霊が犯した罪も含めて総て映し出される…気も狂わんばかりに成るぞ…」

稲津先生「自分の醜い心の姿を、否応無しに"覗け!"と、命じられた気分なのでしょうか…」

「此処が一番恐ろしい處だろうと思う。

そして多くの亡者と共に裁かれて行く。

然し、神が罰を与える事は無い。

天之目一箇之大神は唯"行け!"と一言…此れが判決だ。


こうして、次の幽界の入口『八衢(やちまた)』に向けて再び歩き出す事に成る。

今度は、道幅にして、僅か五十センチ程の畦道の様な、暗くて狭い路を、再び今度はたった一人で歩き出さねば成らん。

真っ暗闇の畦道をたった一人で明かりも無い処を進まねば成らんぞ…。」と中化神龍師は仰有った。