課長に話をした翌日の昼下がり。
純喫茶と呼べるであろう、喫茶店である人を待っていた。
「おう。待たせてすまんな。」
支店長が笑顔で登場した。
「お疲れ様です。お忙しい中申し訳ございません。」
「おう。とりあえずコーヒーや。」
支店長は私の顔を見て、緊張したようだった。
課長とは違い、少し気の小さい所があるのが支店長だ。
こんな所に呼び出した時点で察している。
運ばれてきたコーヒーを一口啜りながら、支店長は私の顔を見る。
「で、どうした?」
「辞めようと思っております。」
今日は迷いは無かった。昨日の時点で覚悟ができたからだろう。
「・・・まあそう言われる思ってたわ。転職か?」
笑顔を見せながら、淡々と話をしてくる。
ここまで何人もの同僚が支店長に辞意表明をしてきた。
その度にこういう話をしてきたのだろう。
そう思うと、管理職というのは辛いポジションだと感じる。
「俺が大阪から横浜に来た時に、お前も本店から来たんやったな。」
窓の外を見ながら支店長が語る。
「活きのええ若いやつが欲しいゆうたらお前がおるって言われたんや。5年前か。」
活きのええ若いやつ。
その頃は確かにそういう立ち位置だった。当時の上司がイケイケで触発されていた。
営業成績も右肩上がりだった時だ。
その後横浜に行き、成績がガクッと落ちたのだった。
落ちた理由はイケイケの上司から開放された反動で私が仕事をサボリ出したからだ。
「あの時、お前を呼んで無かったら今頃本店でトップ張ってたかもしれんな。」
「そう思うとな・・・悔しいわ。」
「すみません・・・。」
「いや・・・ええんや。」
グッと来た。
自分の怠慢に、支店長が責任を感じているのはいたたまれない。
「今日は相談やない。決定やな?」
そう確認すると、得に引き止める事無く今後の流れを説明し、ゆっくりしていけ。と伝票を持って喫茶店を出て行った。
その瞬間、「辞める」事が正式事項になった。
客観的だった「辞める」が1日、2日で現実になった事。
支店長の思い。
そしてこれから。
1人になった喫茶店でようやくタバコに火をつけた。