退職編

課長「どしたのー?」


緊張感の中に響き渡ったのは、課長がおとぼけた際に出す高い音だった。


「じっ実は……」

走馬灯の様に巡る。
新卒で入社し、苦楽を味わい、10年近くやってきた。
多くの仲間が去って行ったが、これから出すその一言で私もそっち側に行くことになるのだ。

震える。

だが言う。



「退職しようと思います。」


空気が変わる…いや

「退職ー!?ショックー!!」

課長の甲高い声が変わることを拒む。

しかし、課長の目は違った。

ジッと私の目を捕らえながら、一言。


「ちょっと行くか?」

今度は限りなく低い声で。
長い夜が始まろうとしていた。