退職編


入社を決意するということは、退職をするということ。

今迄何度か退職しようと思った事があった。が上司にはそんな素振りを見せたことはなかった。

なぜか?


怖いのだ!辞意を伝えるには勇気が必要だ。

今迄マネジメントしてくれた上司や会社に対する謀反とも取れるその行為は、相手に激昂を与えるだろう。


ただ入社日も大幅に伸ばしてもらう事はできない。

言うしかない。

ネットを見ると、辞意の表明は直属の上司に先ず伝えること。そして、ご相談では無くお話がしたいとアポること。
と書いてあった。
またネットにはその時の上司のリアクションも記載されており、私に充分すぎる不安と緊張感を与えていた。


その日、直属の上司はスケジュールがビッチリだった。
こんな時は大幅に残業する事を今迄のパターンから私は知っていた。

定時を越えてから人が減るのを待つ。
その日は周りが中々帰らない。

「課長以外はよ帰れやぁ!」

心の中で叫びながらその時を待つ。
ちょくちょく帰っていく。
課長はガッツリ仕事している。
いいぞ。

~3時間経過~

新人集団が帰らない!
こいつら仕事も無いのにいつもこんなに残っているのか!
なんやったら机拭いてる人間もいる!
なんて恐ろしい。
こいつらも早よ帰れやと思っていることだろう。

「…少し揺さぶるか…」

私はビルを出てコンビニに向かう。

コンビニから帰った私を見て、新人は驚愕しただろう。


なんと私はクリームパンを食べているのだ!


それは、まだまだ残業するよ?というメッセージが大胆に込められている!

しかもクリームパンは3つ程買っている。

書記では無いが、

"私にクリームパンを渡された新人は、私が帰るまで帰ることができないゲームに参加したことになる"

ことは誰が見ても明らかだ。

新人集団がソワソワしている。

ふふ。効果は抜群だ。ほら帰れ。クリームパン渡されたいのか?

私の無言のメッセージに遂に新人集団が動く。

「お…お先に失礼します…」


勝った。

だがその瞬間、手が震えだす。
そして、涙が出てくる。


そう。その時が来たのだ。

何回かの深呼吸の後、私はカラカラに乾いた口を動かす。



「課長。お話が…あります…。」