ありがとうございます。
兄とはあまり会えなくなりましたがよく電話をします。
私は静かにそう答えた。
必勝の展開に、自然と笑顔がこぼれる。
今どんな仕事をしているか。
家族内での位置関係などを話した。
性格、見た目などが正反対であることも彼女が付け加えた。
いいお兄さんなんですね。
母親が微笑む。
そうですね。ただ・・・世間知らずな所もありまして・・・。
兄弟が褒められるのは嬉しいものだ。私は気分が良いのと、ほろ酔いなのをいい事に、少しプライベート過ぎる所まで話そうと身を乗り出した。
初めての「仕掛け」だ。
世間知らずとは・・・?
母親はキョトンとする。
いや大したことでは無いのですが、最近電話がかかってきまして。
車買いたいから名義かしてくれと。
あまりそういう事を言うことに悪気は無いようなんですね。
ハハハと私は笑ってみせた。
名義ですか・・・・。
母親は深刻そうな顔でそう答えた。
私はハッと息を呑んだ。
言わなくてもいい事を…
後悔し、弁明しようとしたが、母親は笑顔に変わっていた。
車好きなんですね。
何事も無かったかのように、ワインを注ぐ。
………
この子はマイペースですけど、よろしくお願いしますね。
今日はお会いできてよかったです。ありがとうございます。
それが終わりの合図だった。
私はテーブルに置いてきたジョーカーを気にしながら、レジでお決まりの押し問答を繰り広げていた。
では私はここで失礼します。
渋谷駅前で、母親はそう言って歩いていった。
母親が見えなくなるまで見送り、私は膝をついた。
終わった…。
お疲れ様ー!お母さん楽しそうだったよー!
不安定な闇の静寂にまばゆい稲妻がほとばしる。
及第点には達したか…
無邪気な彼女を横目に私はタバコを咥えた。
初夏の陽気だったスクランブル交差点には、涼しい風が舞い降りようとしている。
3時間ぶりのタバコにクラクラした風を装い、私は喜びを身体で表していた。
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