先進国においては、自然災害を経験した場合、その後、よりリスクを選好するようになる傾向がみられる。例えば、日本において、東日本大震災(2011年)の後の状況を観察した分析によれば、地震の後に、被災者は、より「金融的な」リスクを許容するようになった。深刻な被害を受けた被災者の男性ほど、より頻繁に、ギャンブルをする傾向があったことなども確認されている。(参考1、2)

 

こうした傾向は、日本において、コロナという未曾有の感染症のリスクにさらされた経験にもあてはまるのだろうか。答はイエスのようである。コロナの感染率の高かった地域においては、金融的なリスクへの許容度が高まっていたことが確認されている。(参考3)

 

感染症の高いリスクにさらされた場合、外出を控えたり、マスクをするなど、感染予防のため、生活面で慎重な行動をとることから、コロナの感染率の高かった地域において、「金融的な」リスクへの許容度が高まるというのは、やや直観に反する。ありうる説明は、高い感染症リスクから感じるストレスを発散/軽減するために、金融面でよりリスクを選好し、例えば、ギャンブルなどの頻度を増やすというものだろう。また、ストレスのゆえに、なげやりな気持ちになり、リスクをとりがち、ということもありうる。

 

コロナ禍の日本において、ギャンブル依存の問題が深刻化したという指摘もある。在宅時間が長くなり、オンラインギャンブルに依存しやすい状況が作り出されたと思われるが、同時に、感染症のリスクに起因するストレスの影響もあった可能性がある。

 

 

(参考1)Hanaoka, Chie, Hitoshi Shigeoka, and Yasutora Watanabe (2018) "Do Risk Preferences Change? Evidence from the Great East Japan Earthquake," American Economic Journal: Applied Economics, vol. 10(2), pages 298-330, April.

(参考2)自然災害にあうと、やはりリスク回避的になるのか | Kiichi Tokuokaのブログ (ameblo.jp)

(参考3)Mineyama, Tomohide and Kiichi Tokuoka (2024) "Does the COVID-19 Pandemic Change Individuals’ Risk Preference?", Journal of Risk and Uncertainty, March 2024.

https://link.springer.com/article/10.1007/s11166-024-09427-5