唐突だが、息子は生まれつきの障害で車椅子を使って生活をしている。

 

3年前に今の小学校に転校してきたのだが、こんな母なりに、うまくやっていけるか、と心配であった。

 

放課後、私が迎えに行くと、必ず今日あったできごとを無口な息子に代わって報告してくれる男の子がいた。仮にラリーとしよう。

 

しばらくすると、息子がいない時、あまり、クラスに打ち解けていないのか、ラリーが大抵ひとりぼっちでいることに気がついた。

 

「ひょっとして息子の世話をすることが、クラスでの心のよりどころなのかもしれない」

と思い、そっとしておいたのに、しばらくすると、担任の先生から、

「ラリーが過剰に世話をしすぎて、かえって息子さんの自立の妨げになっている。止むを得ず、ある程度引き離すことにしました」

と告げられた。

 

まあ、理由には納得なのだけど、少し寂しい気持ちもあった。

 

娘はというと、とっととクラスで友達を作り、自由参加のクラブにもたくさん登録して、忙しい毎日。

学校外でも、ボーイスカウトの女の子版、『ガールガイド』で、奉仕活動や、救急医療を学ぶ活動を、相変わらず続けていた。

 

その日は、ガールガイドキャンプの最終日で、よりにもよって降ってきた雪のなか、山の中のキャンプ場まで、娘を迎えに行かなければならなかった。

 

着いたら、まだ『終わりの会』らしきものをやっているようで、お揃いのTシャツを着て、女の子たちがたむろしている中、一瞬だが、知った顔が通り過ぎたように見えた。

 

ラリー?

 

そんな訳はない。

 

ボーイスカウトが男の子で、ガールガイドが女の子、の認識であってるはず。

 

「ラリーがお目目ぱっちりで、髪が長いから、見間違ったんだな」と思い、その後、すぐに娘を見つけてさっさと車に乗り込んだ。

 

 

何気なく、

 

「えらくたくさん参加したんだねえ。おかあ、ラリーにそっくりな子みかけちゃったよ」

 

と呟くと、

 

「ママ、それラリーだよ」

 

と娘。

 

「ラリー、トランスジェンダーだから」と。

 

すると、息子も、

 

「ああ、ラリー、なんかそんなこと言ってたかも。そんなことより腹へった」

 

と、食べ物を催促する。

 

なんか普通に話が流れていくのを、強引に引き止め、

 

「で、でもさガールガイドって女の子だけじゃないの?」
「そうだよ」
「いや、だってさ、ラリーはさ」
「だ〜か〜ら〜、ラリーはトランスジェンダーで、心は女の子なんだから、全然問題ないじゃん。私、クッキーと、りんごあるけど……」
 

と、腹をすかせた息子にお菓子を与える娘。

しつこく食い下がる母。

 

「でもさ、周りの子はどうだったの?」

思いっきり白けた視線で娘は、


「別に誰もなんとも思ってないよ。普通に、一緒にいろいろやっただけ」

 

と、めんどくさそうに答える。

息子にも尋ねる。

 

「彼、いや、彼女、いや、ラリーのこと知ってどう思った?」
 

と聞くと、


「別に〜。あ、ちなみに、『They』ね。ラリーは、He、とか、She、じゃなくて、Theyって呼ばれたいんだって」
「They? ひとりなのに、They⁉︎」

 

あとで、ゲイ友に聞いたのだが、この、HeでもSheでもない、Theyを、自分の代名詞に使う人が増えているんだそうだ。

 

LGBTに寛容なつもりでいたけど、子供らと比べると、自分は、まだまだ固定観念の人だったんだなあと思いしらされた。

 

そして頭の硬い昭和の女は、急にTheyに切り替えられない、、、。
子供にいちいち指摘されながら、がんばって直している、今日この頃。