♯535【KT-49】夢の新技術<藻類バイオマスエネルギー> | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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 今回は、現在日本において革新的なバイオエネルギー技術の研究開発が進行していること紹介してみたい。

 2005年~2008年にかけて石油価格が高騰した際、トウモロコシやサトウキビなどの穀物を原料としたバイオ燃料の研究開発・を実用化が進んだ。しかし、穀物系バイオ燃料の需要が急増した結果、食料価格が高騰したこと、栽培に広大な土地が必要で、農業機械を動かし肥料、農薬、水などを投入するために非常に大きなエネルギーを必要とすることが問題となっている。この問題に対応するために藻類のバイオマスオイル生産技術研究が世界中で進められているが、最近、日本初の新技術として藻類を用いたバイオマスオイル生産の新技術が注目されている。

 写真は藻類ポトリオッカスの顕微鏡写真であるが、バイオマス微細藻類は、一般的には水中に存在する顕微鏡サイズの藻で、その多くは植物と同様に太陽光を利用し、二酸化炭素を固定して炭水化物を合成する光合成を行い、代謝産物としてオイルを産生する。

 微細藻類によるバイオ燃料は、植物由来のバイオ燃料に比べて、桁違いに生産効率が高く、またトウモロコシなどのように食品利用との競合もないため、次世代バイオ燃料として大変注目されおり、今後大量培養技術が確立されれば、日本を産油国にすることも夢ではないのである。

 その中で、下水処理施設を利用して藻類を育て、それを原油に変換するというプロジェクトが進行中であり、特に注目されている。この技術は、下水に含まれる有機物や窒素、リンを取り除くために必要なエネルギーを藻類が行い、その後、藻類を原油に変換するのである。その結果、日本全国の下水処理場が新たなエネルギー源となる可能性があることが考えられる。

 他方、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)では微細藻類生産設備「C4」での実証プロジェクトを開始している。これは、隣接する火力発電所からの二酸化炭素を活用して微細藻類を生産するもので、持続可能な航空燃料(SAF)の原料として、またカーボンリサイクル技術の一つとして、微細藻類の安定的な大量培養技術の確立を目指している。そして、この技術は産業分野からの排気ガス中のCO₂を活用した5ha規模での微細藻類生産という、世界初の取り組みとなっている。今後の実証試験を通じて、ニートSAFの原料でありカーボンリサイクル技術の一つでもある微細藻類について、安定的な大量培養技術の確立が期待されており、これにより、航空分野での温室効果ガス排出量の削減に貢献し、2050年カーボンニュートラルへの道筋を示すことが目標となっている。同時に、これらの取り組みは、化石燃料に代わる持続可能なエネルギー源として、また温室効果ガスの排出量削減に貢献することが期待されている。日本政府もこれらの実用化に向けて支援を行っており、環境問題解決の世界的なモデルケースとして注目されている。

 日本には2000か所以上の下水処理場があり、仮に3分の1の処理場で藻類を培養し原油生産を始めれば、日本の年間輸入量に相当する1億3600万トンの原油が生産可能だと試算されている。この試算は、下水処理場を利用した藻類バイオマスエネルギーの研究を進める筑波大学研究フェローの渡邉信氏によるもので、藻類から原油に変換する際のコストが高いという課題を克服し、バイオ原油生産と水の浄化を同時に達成する取り組みであり夢の技術として期待されている。

 この技術は、藻類が光合成で二酸化炭素を吸収し、酸素を出すことで、下水に含まれる有機物なども取り込み、水の浄化にも役立つ。さらに、藻類には土着の藻類(混合栄養性藻類)が安定した原油生産に適しており、光合成だけでなく、水中にある有機栄養素を取り込みながら育つ性質があるため、下水処理場での藻類培養に適しているとされている。このような研究が実用化されれば、地球温暖化の防止効果が高く、エネルギーの国産化も可能になると期待されているのである。

 この技術は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた日本のエネルギー政策の重要な柱となっており、環境への適合性や経済効率性の向上、そしてエネルギーの安定供給という観点からも、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服に貢献することが期待される夢の技術となっており、早急な実現が期待される。

<K. Takagi記>