#504【Kiyomi_40】言葉が響くとき⑳ 「山の日」に想う | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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 今日は8月11日、「山の日」である。フルタイムの勤務から解放されて久しいが、「祝日」への関心が急速にしぼんでいる。「山の日」が制定されたのは知っていたが、遅まきながら、行事の多い8月に、どのような意義や思いを込めてつくられたのであろうか、少し調べてみた。

 

 「山の日」は、2014年(平成26年)に、与野党合わせて9党の共同で祝日法の改正案として衆参両議院の本会議に提出され、賛成多数で可決し成立した。「海の日」があれば「山の日」ができる。自然に恵まれた国のあかしであろうか。内閣府のホームページでは次のように紹介されていた。

 

 「……我が国の国土の大半は山であり、我々は、日々多くの山の恩恵を受けて生活しています。大自然の根本たる山と向き合い、その恩恵に感謝し、山との共存、共生を図ることは極めて有意義なことです。……このような観点から、山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝することを目的に、「山の日」は祝日とされました。」

 

  この文面の、「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」のくだりが、「山の日の意義」として周知されているようである。なんとも面はゆいメッセージである。身体に沁みついたものを剝がされたような……。

 

  「山」と言えば、ちょっとした思い出がある。以前、ある生徒が読書中、急に本から顔を上げて、「先生、山ってこわいところなんですね。」と話しかけてきた。彼は読書感想文の課題として、*『はるかなるアフガニスタン』という児童文学作品を読んでいた。どうしてそう思ったのかと聞くと、文中の一文を示してくれた。

 

「山をのぼろうなんて考えもしない」

 

 その本は、山に憧れるアメリカの少女と、アグガニスタンの少年との文通による交流を描いたものである。山好きの日本の少年としては意外な一文だったのだろう。自分も興味があったので、その本をもとに、二人でアフガニスタンの山について想像しながら考えてみた。

 

 アフガニスタンの山々は標高が高く森林限界のためか、写真等を見る限りでは樹木はあまり見られない。山の積雪は農業を支える大事な河川水となるが、気候変動に晒され不安定である。しかも、長年戦乱が続き、山岳地帯は兵士の活動拠点ともなっていた。少年の手紙には、「山の氷や雪や風に命を奪われないよう、山の陰のやせた土地で、作物や動物を育て、生きるためには山と闘わなければならない」と書かれていた。山の美しさを認めながらのわずかな記述ではあったが、それを読む日本の小学6年生にとって、心に残るものがあったようである。

 

 農林水産省のデータによれば、日本は国土の70%が山岳地帯で、その67%が森林である。一方、WorldBank.orgの調査によると、アフガニスタンも国土の75%が山岳地帯であるが、森林の割合は2%程である。山と人との関係の厳しさや山に対する思いの違いは当然かもしれない。

 

 世界に目を向けると、気候変動がもたらす熱波が干ばつや森林火災を多発させ、熱中症による死者を増加させている。特に、近年世界各地で頻発する大規模な山火事は、高温乾燥による自然発火だと言われている。今朝も朝刊(朝日新聞)を広げると、ハリケーンの強風により、ハワイで大規模な山火事が起き、36名の死亡を報じていた。7月27日の国連グテーレス事務総長の会見を思い出す。7月の世界平均気温が観測史上最高となるのが確実視されたときの警告だ。

 

「地球温暖化時代は終わり、地球沸騰時代が到来した」

 

 四方を海に囲まれ、山が多く平野の少ない日本では、山は身近にあり、登山やハイキングも活発である。その一方で、自然への畏怖として「山の怖さ」も教えられてきた。だからこそ、山のある風景は日常であり、生活に安心感を与えてくれる。しかし、里山の破壊、豪雨による土砂災害、河川の氾濫等、山もまた、今まで通りにはいかないだろう。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」だけでは済まない状況にある。むしろ、山を守り、山との共存・共生の道を検証し、具体的に示していくことが政府の役割ではないだろうか。

 

 朝刊に興味深い記事があった。斎藤暖生氏の隔週金曜コラム「森からみれば」の「戦争 草木までも総動員」である。大戦末期に、戦闘機材料として松根油(松の根を加熱して採取)を得るために、まだ成長していない樹木までことごとく伐採されていったという。「山の日」にふさわしい記事であった。

 

 *『はるかなるアフガニスタン』(アンドリュー・クレメンツ著 田中奈津子訳 講談社)

 

      

      みくりが池 遠景は立山        遊歩道 右奥が立山

 

      

               香川県の山(電車内から)

 

 

 

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