♯0267【kubotan89】:気になる病院での医学用語② (2020.02.11)   | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
投稿記事ブログです。


       専門用語をやさしく言い替えた解説書

 

●私は、若い時分、ほとんど病院のお世話になったことがありませんでした。

そのため医師や看護師の専門用語には、普通の日常会話ではお目にかかれ

ないものが数多くあることに、全く気がつかなかったのかもしれません。

 

ところが、今やシニア世代に入ると病院のお世話になる機会が増えてきたので、

病院内の会話に自然に敏感になってきました。その会話の中に、聞き慣れない

言葉や表現があると、私は意味不明な用語の意味に関心を持つようになったの

です。

 

            

                  (病状固定???)

  

●さて、上のイラストの場合では、担当から突然「症状固定(しょうじょうこてい)

ですね」と言われたので、患者はどのように理解すればいいのか戸惑っている

様子を表わしています。

 

     担当医:「もう変化がないので症状固定ですね。」

     患 者:「(症状固定ってなんのことだろう。先生に聞くのも

           恥ずかしいし、どうしょう)…と、心の中でつぶやく」

 

結局、この患者は意味不明の言葉に、不安を抱えたまま診察室を出てしまうこと

になります。思い切って先生に尋ねれば済むのが、日本人の奥ゆかしい習性から、

忙しい先生に遠慮してしまいます。これでは、患者が何のため病院に行ったのか

わからないので、こういう場合でも勇気をもって聞いてみるべきだと思うのですが。

 

●症状固定とは、医師が投薬やリハビリを行うことで、一時的に症状の回復があっ

ても、時間が経つともとに戻ってしまい、全体的に見て症状の経過が平行線となって

しまうことをさします。そして、患者がこれ以上治療を続けていても、今以上に症状

の改善が望めない状態に達した症状のことをいいます。

 

ちなみに、この症状固定でよく問題になるのは、交通事故に遭い治療を行っている

最中に、保険会社から「そろそろ症状固定しましょう。」などと言われることがあり

ますが、簡単にと応じてしまった場合、後になって適正な範囲での補償が受けられ

なくなるケースがあるということです。

 

●ですから、患者は後の祭りにならないように、たとえ忙しい先生であっても、疑問が

あれば尋ねてみる必要があるかもしれません。もしそれができない場合は、家庭の

医学本か専門書を調べてみるべきだと思います。

 

ただ、医学用語の専門書や辞書は多くありますが、わかりやすく解説してある内容の

ものは、意外に少ないという現実があります。そこで、最近、図書館巡りをしながら

辛抱強く探したところ、幸いにも一冊の本に巡り合うことができました。

 

それは友利新著の『現役医師がやさしく教える病院のことば』(小学館)という本で、

この本はまさに「目から鱗」という内容になっています。ネットで調べてもなかなか見

つけられなかったのですが、読めば読むほど有益な本で、日本人向けというだけで

なく、外国人の日本語教育のテキストにも十分使える内容になっています。

 

●友利先生は、医師と患者の間でコミュニケーションが円滑にいっていないという

危機感から、医学用語を一般向けにやさしくいい直すという発想から、難しい漢語を

大和言葉的に変換するという地道な翻訳、いわゆる「翻訳作業」を敢えてなさった

わけです。

 

●その内容を一読してみると、多忙な現役医師がよくぞここまでの成果を上がられ、

まさに敬服の至りです。その第一章に取り上げられている専門用語の約半分を、見

やすくするために表にしてみましたので、以下の内容は、特に右側の{やさしい言

い替え}の欄をご覧ください。

  

第1章 耳慣れない漢字の熟語(45個の内、約半分の紹介)

No

専門用語

   医師の説明

   やさしい言い替え

1

鬱血

(うっけつ)

新機能が低下して鬱血しているので、心不全を起こす可能性があります。

心臓の力が弱くなって、全身に血液を送り出すことができず、血液がたまっています。そのため、心臓に十分はたたらかない可能性があります。

 2

壊死(えし)

血液障害のため腸管の一部に壊死した可能性があります。

血の流れが悪くなって酸素や栄養が十分に行き渡らなくなったので、腸の一部の組織が死んでしまい、はたらかなくなっています。

 3

炎症

発熱や全身倦怠感がみられるようでしたら、身体で炎症が起きている可能性があります。

熱があってだるいのは、体内のダメージを取り除こうとする、からだの防御反応かもしれません。

 4

黄疸

(おうだん)

黄疸が出ていますので、肝臓病の可能性があります。

皮膚や白目の部分が黄色く変色していますので、肝臓の病気かもしれません。

 5

潰瘍

胃痛の原因は潰瘍だと思われます。

お腹が痛いのは、胃の一部に穴が飽きそうになっていることが原因かもしれません。

 6

化学療法

手術に先立って腫瘍を小さくするために、化学療法をおこないましょう。

手術をする前に、まず、抗がん剤を打って腫瘍を小さくする治療をしましょう。

 7

かかりつけ医

術後の経過もよいので、今後は、地元のかかりつけ医で経過観察をおこなってください。

手術後、順調に回復しています。問題はありませんので、地元でいつも診てもらっている医師に、異常がでないか経過を理解してもらってください。

 8

合併症

高血圧を放置しますと、さまざまな合併症が起こるリスクが高くなります。

高血圧の治療を行わないと、新たな病気を併発する可能性が高まります。

 9

寛解・緩解

(かんかい)

血液検査など数値的に異常は認められないので、病態は寛解状態といえます。

再発の可能性はないとは言い切れませんが、検査結果には異常が見当たりませんので、回復したといえるでしょう。

10

既往歴

既往歴を教えてください。

今までに病気になったり、ケガをしたことはありませんか?

11

狭窄

(きょうさく)

食道に部分的な狭窄がみられます。

食道が部分的に狭くなっていて、食べ物などが通りにくくなっています。

12

虚血

胸の痛みは虚血性心疾患の可能性があります。

心臓の血管に異常があり、心筋に十分な血液が送られないことが原因で、胸の痛みを引き起こしている可能性があります。

13

後遺症

脳梗塞の場合は、後遺症が残る可能性があります。

脳梗塞の場合、病気がよくなった後も、なんらかの症状が残る可能性があります。

14

膠原病

(こうげんびょう)

微熱が続き関節の腫脹や痛みがあるため、膠原病の疑いがあります。

微熱が続いていますし、関節の腫れがあり痛みも感じるようなので、ご自分の免疫に反応して起こる病気の疑いがあります。

15

梗塞

(こうそく)

胸痛の原因は冠動脈の梗塞が原因かもしれません。

胸の痛みは、冠動脈という心臓に栄養を送っている血管がつまってしまい、血液の流れが途絶えてしまっていることが原因かもしれません。

16

抗体

風疹の抗体検査をしましょう。

風疹にかかったことがあるかどうかを検査しましょう。

17

誤嚥

(ごえん)

 

食事中や食後にむせてしまうのは、誤嚥を起こしているのでしょう。

食事中や食後にむせてしまうことが多いようでしたら、食べ物が間違って気管に入ってしまっている可能性がありますね。

18

昏睡

このまま昏睡状態が継続するとしたら、覚悟が必要です。

このまま、意識の消失、無反応な状態が続くと、たいへん危険です。

19

嗜眠

(しみん)

昏睡状態は脱しましたが、嗜眠状態にあり、あります。

刺激に反応しますが、すぐに意識がなくなってしまう状態です。

20

重篤

(じゅうとく)

病状によっては今後、重篤な症状が出現する場合があります。

病状によっては、非常に重く、生命に危険が及ぶ状態になる可能性があります。

21

腫瘍

胃に腫瘍が認められますので、悪性か良性か検査を進めていきます。

胃に細胞が増殖し固まりを形成したものがありますので、ガンかそうでないかを調べる検査をします。

22

自立神経失調症

自律神経失調症の疑いがあります。

検査の結果はとくに異常はありませんが、全身がだるいなどの症状があるようなので、神経のコントロール機能が少し疲れているのかもしれません。

23

振戦・震戦(しんせん)

アルコール依存症のため、手に振戦が求められます。

アルコール依存症の影響で、無意識のうちに手が小刻みに震えています。

24

浸潤

(しんじゅん)

ガン細胞が浸潤しています。

ガン細胞が周囲に広がっています。

25

譫妄

(せんもう)

入院中は、譫妄症状を表す患者さんもいます。

入院中、一時的に意味不明な行動をする患者さんもいます。

26

髄膜炎

髄膜炎に起因する頭痛や発熱です。

脳を保護している膜に炎症が起きているため、頭痛や発熱が起きています。

27

塞栓

(そくせん)

今回の肺梗塞は塞栓が原因だと考えられます。

今回の肺梗塞は、異物が血管内を移動し、脳血管をつまらせたことが原因です。

 

●いかがでしょうか、上表にあった語句は全部で29個ありましたが、皆さんは全部で

いくつわかったでしょうか。私の場合、読むことも意味も分からなかったのが、赤字に

した用語の7個でした。

 

鬱血(うっけつ)、壊死(えし)、炎症、黄疸(おうだん)、潰瘍、化学療法、

かかりつけ医、合併症、寛解・緩解(かんかい)、既往歴、狭窄(きょうさく)

虚血、後遺症、膠原病(こうげんびょう)、梗塞(こうそく)、抗体、

誤嚥(ごえん)昏睡、嗜眠(しみん)、重篤(じゅうとく)、腫瘍、自立神経失調症、振戦・震戦(しんせん)、浸潤(しんじゅん)、譫妄(せんもう)髄膜炎、

塞栓(そくせん)

 

●病院では、こういう用語が普通に使われているのですから、一般の患者がわから

ないのは当然かもしれません。

 

       

              (わかりやすいメセージの発信!)

 

友利先生のご本は、他の多くの医師にとっても有益なメッセージとなります。なぜな

医療現場のわかりやすい日本語表現を学ぶ手段として、きっと立派なテキストになり

得るからです。

 

病院関係者の無意識の言葉遣いが、患者を勇気づけることもあれば、ダメージに

なる恐れもあります。特に、主治医の言葉遣いは、日本人の患者だけでなく、増え続

ける外国人移民の不安を取り除く効果があり、皆が安心して病院に行くことができる

のではないでしょうか。

 

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(2020.02.11)