コトバあれこれ

コトバあれこれ

子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
投稿記事ブログです。

  最近、VUCAというカタカナ言葉がビジネスや教育での言葉として使われ始めているが、ご存じだろうか? もともとVUCAは、アメリカで「不透明な戦略」を表す軍事用語として使われていた言葉であった。

  Volatility (変動性)、Uncertainty(不確実性), Complexity(複雑性), & Ambiguity(曖昧性)

 

 「予測困難で不確実、複雑で曖昧な状態」を意味する。グローバル化や多様性が進展する中で、世界的な人口爆発と同時に先進国では超高齢社会・人口減少など逆の社会構造の変化が起きている。また、地球温暖化による気候変動や異常気象、台風や地震といった災害など予測困難な事象も起る。AIなどの新しい技術の急速な発達による社会の革命的変化も起こり始めている。まさに、これまでに経験したことがない想定外の変化が起こるのが「VUCAな時代」の特徴なのだ。そして、コロナ禍の影響により世界中の社会が大きく変容したことは、VUCA時代における予測不可能な状況の適例といえよう。想定外の出来事で、社会のあり方が簡単に、大きく変わってしまうことが改めて示されたのではないだろうか。
 

  この観念が、ビジネスや教育に導入されたきっかけは、「OECD Education 2030プロジェクト」(2015年)で提案された「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」であった。(1)
 

 「教育は、子どもたちに「何かを教える」ということにとどまるのではなく、一人ひとりの子どもが、信頼できる「コンパス」を持ち、VUCAとなる世界においても、自信をもって、自らを導いていくことができるよう手助けするものに変わってきている。」(2)

 

  教師から指示されたことをこなすだけではなく、このコンパスにより、自分で目標を設定し、実行計画を立てて責任を持って行動する。そして、PDCAにより能力をたかめてゆくのである。背景には、社会の変化がある。従来の知識重視、暗記型テストにより選ばれた人材は、AIの出現によりその価値を落とし始めた。替わって、探求型学習によってVUCAな時代に対応できる能力が求められるのである。

  日本ではかってこの点で大変出遅れていたが、2003年ごろのOECD/PISAショック以来、PISAへの関心が高まった。そして、文科省もこれに気付き、ここ数回の学習指導要領改訂でこの方向へ舵をきっている。PISAの狙いは、これからの時代に必要な力は、自ら問題を見つけ出し、分析し、自分の言葉で表現する力ということで、そのため、論理的な思考力や表現力、コミュニケーション能力を図る方向性を強調している。 

   作文教室の教材として使っている外山滋比古の『思考の整理学』に、「グライダー」という一章がある。“学校はグライダー人間の訓練所である。先生と教科書に引っ張られて勉強する、独力で知識を得るのではないから。一方、飛行機人間は自分でものごとを考え、発見・発明する”。 まさに、これはVUCAへの対応力を述べているのではなかろうか!

 入学試験でもこの探求型学習の成果が試されるようになってきている。思考力、読解力、創造力、コミュニケーション力を目指す私たちの作文教育は、その絶好の学習の場になりうると思う。

 

▼参考資料
(1)OECD Education 2030 プロジェクトについて  title (oecd.org) 

(2) 白井俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来』ミネルヴァ書房、2020年
(3) 学習指導要領改訂の考え方 (mext.go.jp)

(4) 経済産業省(PDF)「人材競争力強化のための9つの提言(案)~日本企業の経営競争力強化に向けて~」2019年

(5) 【資料2】Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ<中間まとめ> (mext.go.jp) (令和3年12月24日)