春はあけぼの。
夏は小錦、秋は武蔵丸。で、冬に鬼雷砲。清少納言はそんな事あ、絶対言ってないだろうな。枕草子。俺の場合は差し詰め、いつかの力士、だなって、けっ、大してうまくもねえ。面白くも何ともない。知らない山道をオートバイで走行しつつ、鼻水が垂れて。寒いね。結構、寒いね。独り言。雨も少し降ってるし二月の平日、誰も居ないよな、酔狂は、って見たら、なんだ、結構居るじゃないですか、テント張ってるじゃないですか、タープ張ってるじゃないですか、椅子にテーブル、車を横付けにして、グループキャンプじゃないですか、嫌あね、人、恐るべし、キャンプブーム。
俺は神経質でデリケーツ、色気を醸し出す天然パーマ、そんなガイ。きっと前世は縦にすげえ長い烏帽子被って、婦女子と蹴鞠したり、和歌を詠んだりしてたんだろうなと思う。で意中の女子に決死の思いで会心の和歌を送るも、待てど暮らせど全然返信がなくて絶望、何たる禍事でありませうか、此の世はポイズン、かなんか言って、宮中で傷心の挙句、焼身自殺を遂げた、のかも知れぬ。そんな高貴で哀しい魂を宿す俺は、キャンプなんて野蛮な趣味にハマるなんて思ってなかった。一部の達人、野人、筋骨隆々で両手にサバイバルナイフと鉈をぶら下げた、全身迷彩柄で決めた髭面の男がやるものだと信じていた。昔、アウトライダーって雑誌でオートバイキャンプ特集を頻繁にやっていて、憧れはあったけど、なんとなく敷居が高かった。俺は、或る意味ではキャンプブームに乗っかっただけの俗人かも知れない。まあ、それでいい。なんだっていい。キャンプ、超面白い。ただ、それだけ。
そんで初めてのデイキャンプ。山を越えて鳥栖市。受付で利用申請書に記載して券売機で計千円を支払う。薪は500円で売ってるけど爆ぜなし手間なし、風情なし。
大事なのは風情。色気。杉かな。販売されてる薪はブロック塀、煉瓦、レゴブロック、風呂場のタイル、を連想させる形状で、此れに500円払うのは口惜しい。隣接する森で倒木を拾って薪にする。ソロ用のサイトは6区画あったけど、使ってるのは俺だけだった。そこは良かった。区画のロープが分かりやすいし、思ったより広い。オートバイなら二台でも十分余裕がありそうだ。ただ後ろはアスファルトに面していて、下にテニスコート、グラウンドのように広がったメインサイトが見渡せる丘になっていて、別に他人のサイトやテニスプレーは見たくないので其処は風情に欠けた。まあ、ダムだし。人工物が嫌でも目に入る。整地も綺麗にされていたけど、それ故に食い終わった缶詰めが一つ捨てられていたのが癪に触った。炊事場では食い残し、多分鍋の締めの雑炊が流しに残留していた。葱に卵、米粒。最後まで、食え。腹破れても、食え。グループキャンプで作り過ぎたんだろうか。敬愛する町田康先生はその昔、メシ喰うな、と絶叫なさったけれども。
メスティンに昨晩の自宅鍋、その残り物。ほりにし、醤油、生姜に漬け込んだ鶏もも肉、ウインナー、玉葱、唐辛子、韮、固形鍋の素を入れ水を適当に注いで蓋をして、ピコグリルに載せる。食べる。正直、普通。締めにコンビニで買ったシャケおにぎりを海苔を剥がして投入、海苔は千切って振り掛ける。味は、予想通り。美味くも不味くもない。至って、普通。珈琲を飲む。豆が少なく湯の量が多く、結果として当然味が薄くなった。薄茶色のお湯。市販のアップルパイを焚火で焼いたら皮がパリッとなって意外と美味かった。強風で舞った灰が大量に付着したものの。
総じて静かに自然を感じるソロキャンプをしたい俺には、不向きな場所だったかも知れない。街から近いし、みんなでわいわいするならいいかも。それは俺にとってはポイズン。なんだよね。偏屈。ただキャンプ自体は矢張り、楽しい。で、最後に一言。
焚火は夜がさらなり。

