赤い線、青い線 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

男には究極の二択を決断しなければならない時がある。

仕掛けられた時限爆弾の赤い線か青い線、どちらを切らねばならないか、男なら誰だって一度くらい決断を下した経験がある筈だ。よく思い出して欲しい。コツコツと時間が刻まれていく。もう猶予は無い。ヒリヒリした焦燥に駆られながら、あの時貴方はどちらの線を切っただろうか。赤い線だったか、青い線だったか。もう、忘れてしまったとでも言うのか?

 

福岡市早良区高取、地下鉄空港線藤崎駅4番出口から徒歩一分「福の季」でしがないサラリーマン犬養銃一郎(37)は二択を迫られていた。昼休みの時間は限られていた。早く、決めなければならない。

 

Aランチ(ロースカツ定食)¥900なのかBランチ(海老&カツ定食)¥800にするのか。

 

犬養は決めあぐねていた。とんかつ、と記された暖簾をくぐった時点で犬養はとんかつを食べたい気分だった、其れは間違いない。とんを漢字で書くと豚、犬養は豚肉を揚げたものを食べたかった。Aはロースカツ、つまりは100パーセント豚、Bは海老&カツ、つまりは50パーセント海鮮50パーセント豚、なのだ。迷う必要は無いだろう、豚肉を食べたいんなら豚100パーセントのAランチにすりゃあいいじゃないか、時は金なり、さっさとAランチを注文し給へ、このスットコドッコイ、と犬養を罵る人がいるだろうか、いないだろうか。どっちだろうか。どちらにしてもどうか犬養を優しく見守ってあげて欲しい。彼は繊細で傷つき易い、根っからデリケートな男なのだ。Bランチは50パーセント海鮮、海老フライなのだが、その分値段がAランチより100円安い、そこが犬養にとって重要な悩みの種、問題の根幹、枢要の肝要の肝、犬養の月毎に貰う給金は世間一般に比較して大分お安い、彼の財布に三千円以上の金が入っている事は殆どない、心はAランチかBランチかで振り子になって揺れ動き、その針は止まる事なく段々に速度を増して行く、その苦悶にこれ以上耐え切れなくなった犬養の頭の中は急激に温度が上昇し、ぼん、脳内爆破みたいな状態に陥った。目の前が一瞬真っ赤に染まった。焼け野原になった頭で犬養は注文を告げた。

 

「Aランチを下さい」

100円くらい、いっか。軽くなった頭で犬養は決断を下した。線は切られたのだ。運ばれて来たとんかつは衣がサクサクで肉が薄めでなんとも大衆的な味わいだった。これでいい、これがいい、と犬養は思った。頭が、焦げ臭かった。