かけうどん物語 「カケウドンイズノットデッド」 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

ーあらすじー

(その男は食べ歩きが趣味である、と世間に公言して憚らなかったものの、金銭を使うことを極端に嫌がる頗る吝嗇な性質の持ち主であった。従って男の好む食べ物は主に麺類に限られていた。安いし汁まで飲み干せば十分に腹が膨れるからである。うどん屋に入れば決まって“かけうどん”を注文した。男の身体の半分は“かけうどん”で出来ているのかもしれない。男にとって“かけうどん”とは、まるでバファリンのようであった…)


快適レールバス、出会いを求めて走る甘鉄 に乗ると、束の間の観光気分に浸れる。ディーゼル車特有の唸るような音と、尻を突き上げる感覚が楽しい。俺は運賃表を眺め、小銭の計算をする。先輩 がどこで降りる積りなのか判然としねえ。切符(甘木駅には券売機があった)は無く、当然ICカードも使えない。乗車する際に整理券を受け取り、運転台横の精算箱に料金を投入して降車する路線バスみたいなスタイルだ。次の駅くらいかな、と余裕をかましていると、やーっ、ていう掛け声を発しそうな勢いで突然先輩が立ち上がる。慌てて俺も後を追う。正規の運賃を支払えたのか自信が無い。


西太刀洗駅だった。そこから徒歩による、まさしく食べ歩き、がスタートした。甘鉄は基山から甘木まで、東西に国道500号線とおよそ平行に走る路線である。降り立った俺らは、国道500号線を甘木方面、東に進み始めた。歩く者を考慮している道路では無い。俺ら以外誰も歩いていない。幹線道路らしくトラックなど大型車も多い。雑草が茂った狭い路肩を傘を差して歩く俺らを、邪魔そうにドライヴァー達はハンドルを切って避けていく。そんなに大袈裟に避けなくても、と思う車が数台あった。

通り沿いに平屋の渋い建物が見える。傍に屋根より高い大木が植わっていて、小さな祠がある。レトロな木造建築は、何だか神社の社務所のような外観である。駐車場が広くドライブインといった風情だ。


三井郡大刀洗町山隈1319-9「薬師うどん」さんだ。早朝から昼過ぎまで、という珍しい営業時間の老舗らしい。


午後13時過ぎ、引き戸を開けると券売機の前で数組が並び、入り口付近に人だかりがしている。なかなかの繁盛店であるらしい。順番を待ち、食券を購入する。かけ(そば、うどん)330円である。コの字になった厨房丸見えのカウンター席に座った。食券を厨房とカウンターの境目に置いた。厨房内をきりきり舞いで立ち働くおばちゃんが食券を手にすると同時に「うどん、そば?」と訊いてくる。うどん、と即答した。「天かすは」と訊かれ、入れて下さい、と言った。無料なら基本的に何でも入れたい性質なのだ。向こう側に座っていたスポーティな格好をした親爺が同様の質問をされていると、心なしかおばちゃんを小馬鹿にしたような声色、そんな分かり切った愚問をしてんじゃないよ、僕が天かすを入れないのは周知の事実だろう、といった高慢な感じで「天かすはいれちゃいかーんよ」と答えていたのが聞こえ、俺は生まれて初めて人を殴りたいと思った。俺の怒りのスイッチは狂っているのだろうか。その場所は自分でも頓とわからねえんだ。



入り口脇に設けられた無料惣菜コーナーで沢庵と煮昆布を取った。ははん。煮昆布が置いてあるってことは、ここのうどんの出汁は昆布だね、と俺は推測した。優しい味わいの筑後うどんに違いない、と食べる前から踏んでいた。



銀のボウルにたっぷり盛られた葱を、しゃんしゃか素早い動作でおばちゃんが丼に投入する。天かすもちゃんと入っている。なかなか豪華な見た目だ。


「かけうどん」330円のお出ましである。


不揃いの麺はでろりと柔らかい。出汁は甘味より、醤油っぽさ、塩分を感じる。少ししょっぱめな感じである。葱がたっぷりで食感が小気味良い。おいしい。ごく普通においしい。食べ飽きない味だと思う。


国道沿い、渋い外観、全員おばちゃん、ドライヴァー相手、早朝営業、あの国営放送で特集された久留米ラーメン 店と共通する要素が多く、そのうどんバージョンみたいな気がした。






薬師 うどん店うどん / 西太刀洗駅山隈駅今隈駅
昼総合点★★★★ 4.0