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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

ふと、背中が熱くなった気がした。


後ろを振り向くと、透明な耐熱ガラスの向こう側から、オレンジ色の炎が轟々と立ち上っていた。一見すると火事である。ファイヤーと叫びたくなる光景だった。



その惨事から程なく提供された一品が「地鶏のもも焼き」750円であった。黒ずんだ炭の跡が炎の凄まじさを雄弁に物語っていた。


絶妙なコリコリ食感を残した柔らかい鶏肉だ。たっぷり添えられた柚子胡椒が、さっぱり爽やかな柑橘系の辛さを演出して呉れる。



焼鳥屋にキャベツは欠かせない。追加注文するたびに徐々にカットが荒々しく雑になっていく感じが堪らなく愛おしいのだ。



矢張り、サラダも摂取しておきたい。油っこい焼鳥だけでは腹が靠れてしまう。そうだろ、兄弟。



「豚バラ」140円は兎に角大きい。瑞々しく脂が滴る。ドラゴンボールに出てきそうな、いかにも肉、といった肉だ。歯で噛み千切る感覚は格別である。



「とりレバー」100円、鉄分を体内に蓄える必要もあるだろう。少しの苦みと、しっとりした感触が口内に残った。



「とり皮」100円、酒で気分が上々になった者たちが、写真に写り込もうと躍起になる。


「お前はなんば撮りよっとか!」


「ブログ?何の意味があっとか。自己満足か」


肝心のとり皮は、専門店のそれと比べると小振り感が否めないが、濃い味付けで一本は食べて損は無い一品である。



「えのき巻」180円、そのまんま、えのきの味がした。ダイレクトえのきだった。


「ところでお前、名前なんやったっけ?」



「ダルム」140円、以前、生粋の久留米市出身者にダルムを知らないと打ち明けると、似非だな、と一蹴されてしまった苦い経験がある。排他的な土地だ。全く。約2秒で口の中ですっかり溶けてしまう。まるで生キャラメルみたいである。


「お前、そげんか体勢で写真ば撮んなやん!気色わるさー」



「骨付きカルビ」800円、大正生まれの祖母は、こいつをステーキと呼んでいた。小学生時分は、この世で最高峰の肉だと信じて憚らなかった。骨周りの肉をしゃぶり尽くす。至福のひと時である。


「お前、女は好きか?…ああ、なら良かった」



「牛タンステーキ」950円、個人的にレモンを思いっきり搾ってみたかったが、多種多様な好み、拘りが錯綜する大勢の飲み会では、色々と問題が生じそうなので、諦める。普通に柔らかい肉だった。舌だけれども。


「よし!じゃあ好きな体位、お前から!」



「とりみ」150円、もっさり、ぱさぱさした歯応えで水分が持って行かれる。後半に食べるとかなり満腹中枢が刺激される質量である。


「好きなパーツ!おいはふともも、軽く筋肉が付いとるごたっとが良かな。中途半端な水泳選手やらが最高やな。ほら、順番ぜ!」



「しそバラ巻」200円、しそはいい。後半に食べると丁度良い。さっぱりしているから。


「結婚は。彼女は。…まあ、そうやろうな」



飲み会は、西鉄久留米駅ほぼ正面に位置する日本生命ビル、その細い裏通りに店を構える「炭火焼 ひら田」で催された。下ネタが炸裂していた。個人的な嗜好が白日の下に晒された。






炭火焼 ひら田焼き鳥 / 西鉄久留米駅櫛原駅花畑駅
夜総合点★★★☆☆ 3.9