かけうどん物語 「カケウードンに花束を」 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

ーあらすじー

(“かけうどん”、それが男のすべてだった。福岡・佐賀に散らばる某うどんチェーンJ、その全店舗で“かけうどん”を食べた時、きっと地球に何かが起こる。世界は新たな局面を迎えるのだ。男は狂気に支配されていた。妄念は膨らみ続ける。男は“かけうどん”の向こう側に一体何を見ているのだろうか…)



(一体、ここは何処なんだ。でっけえ条虫の腹の中か?)


田園地帯を一台の自転車が走っている。駆け抜ける赤い彗星、男の自慢のマシンだ。レッド・ハードボイルド・カウボーイ。傍目にはお気楽なサイクリングに見えているかも知れない。おっさんが気儘にふらふらチャリンコを漕いでいる、と。しかし、ペダルを漕ぐ男は疲れ、焦っていた。現在地を見失っていた。五月にしては些か強烈過ぎる陽射しが、容赦なく男に照りつけ、体力と気力を奪う。もわんとした熱気で頭がくらくらする。脇を掠める大型車が巻き上げる粉塵が剥き出しで汗まみれの顔面にこびり付く。


(…筑後うどん?)


はためく幟に、男は引き寄せられるように、ごく自然に吸い込まれていった。まるで子ども110番の家に避難する子どもみたいに。


其処が筑後市大字長浜135-1「麺楽」さんだった。



ちゃん、ちゃか、ちゃんちゃん、ちゃんたか、たかちゃん、と広い店内に和風なBGMが響いていた。琴の音色なのだろうか。テーブル席に座ると、冷たい緑茶が提供されたので、一息で飲み干した。


それから「かけうどん」300円を注文した。大きなメニュー表が三枚もあり、男は「かけ」の表記を探すのに少し時間が掛かったようだった。


器に高さがあり、深く見えた。麺、葱、出汁、気持ちの良いビジュアルの「かけうどん」だ。


(…やわい!)


麺を食べた感想だ。


(…こんぶ!)


出汁を飲んだ感想だ。


口当たりの良い柔らかく粘りのある「ねばりごし」の麺、少し甘めに調えた昆布ベースの出汁、農作業の合間に食べたくなる「筑後うどん 」ずばりそのものであった。まあ男は、農業なんてやったことないのだが。


男は熱い緑茶を続けて二杯飲み、コインを三枚、カルトンに並べると、静かに店を後にした。


麺楽うどん / 羽犬塚駅
昼総合点★★★★ 4.0