ーあらすじー
(福岡、佐賀に展開する某うどんチェーン“J”、その全店舗で、最も廉価な品、具の無いシンプルで気高いうどん“かけうどん”を食べてみせる。しかし、その熱い決意は呆気なく揺らいでしまう。さくさくっと福岡県の店舗を巡り終えた男は、全く同じ味のチェーン店の“かけうどん”を食べるためだけに、佐賀まで行くことが億劫になったのだ。面倒くさいし、交通費が勿体無い。そう、これまで男は何をやっても悉く中途半端だった。何一つとして最後まで達成したことが無かった。恥の多い生涯を送ってきた。このままでは駄目だ。駄目人間だ。なんとしても物語は紡いでいかねばならない。取り敢えずどの店でもいいから、うどん屋に入ったら愚直に“かけうどん”を食べ続けよう。いつの日か、“かけうどん”全軒制覇をやり遂げることが出来た暁には、きっと人生の活路が見出せる筈だ。翼を広げろ、男よ。飛び立て。“かけうどん”の向こう側まで…)
もくもく立ち上がる白い湯気に引っ張られるように、昆布出汁独特のまろやかな香りが、男の鼻腔に優しく届く。ほんのり甘く、ささくれた心がほっこりする出汁だ。白い麺をつるつる啜り、よく噛んで食べる。それは細目で、ごく自然に柔らかい。
まさに模範的な筑後うどん だ。
具は葱だけであるが、無料のトッピングで自由にカスタマイズが可能だ。天かす、粗粒の一味、普通の一味、胡麻、煮昆布と豪華なラインナップである。コリコリの歯応えを残した煮昆布で、正月気分を先取りしては如何だろう。
男が食後の一服をかまそうかどうか悩んでいると、煙草を片手にしたラフなジャージ姿の、二人の中年男性が来店する。一人は長い茶髪をポニーテール、若しくは少し前の志村けん風にまとめている。もう一人はVシネマのチンピラ風だが、ぽっこり突き出たお腹周りに愛嬌がある。一体何屋さんなのだろう。頗る愛想のいい婦人が至極丁寧に接客する。茶髪志村けん風は歯を治療しているらしい。婦人は、おじや、を作ってあげましょうか、と提案している。もう一人は酒とサバを注文した。どうやら居酒屋的に利用しているようだ。なんとも懐が深い店だ。
「さわ荘うどん 東町店」は西鉄久留米駅から高架線沿いに南西に進むと難なく見つかる。黒く塗装された木の質感、障子戸、ヤニ汚れっぽく茶色に褪せた壁、昔ながらの風情溢れるスタンダードで渋いうどん屋さんだった。
さわ荘うどん 東町店 (うどん / 西鉄久留米駅、花畑駅)
夜総合点★★★☆☆ 3.9
