翔んでる警備19 | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

その男、「警備士M策」は突然辞職したZの後釜としてやって来た。

M策は根っからの警備人間で、全国津々浦々警備会社を渡り歩いてきたらしい。現在は久留米市内で一番家賃が安いアパートに一人暮らしである。

V蔵とE朗の同い年であるが、E朗に言わせれば、俺より相当老けている、との事だった。面長で眼鏡はいつも下にズレており、180センチを超える大柄な体型だが「いやあ、すいませんです。へへへ。すいません。エヘヘ。恐縮です」と目一杯腰を屈めて喋るのが癖らしかった。一見過剰な腰の低さと甘ったるい言葉遣いから、オカマと呼び捨てる者もいたし、その風貌の類似からアニメキャラクターになぞらえ、友蔵、ボーちゃんと呼ぶ者もいた。物覚えに難があり、指導する同僚が声を荒げると「私は馬鹿ですけんっ!横からゴチャゴチャ言われるとこんがらがって余計わからんごつなっとです!」と顔を真っ赤にして逆ギレした。

脳の大手術を受けて間も無いらしい。その後遺症なのか、階段でしょっ中躓いては足を挫き、同僚から湿布を貰っていた。物覚えの前に健康が心配である。目の前でぶっ倒れられたら一体どうしたらよいのだろう。まさか手術で脳神経が刺激され第六感が研ぎ澄まされた訳でもあるまいが、M策は霊が見える、と言って憚らなかった。キョンシーをよく見かけるらしい。

まあ、よく雇ったものである。この警備会社は本当に面接しているのか。何でもアリなのか。

「私は防犯よりも防災が好きなんですよ。へへへ。そこの制御盤の扱い方やら知らんでしょ?勉強した方がよかですよ。これから警備員人生送っていくなら。えへへ。この会社は防犯がメインだから、私が好きな方向とは少し違うんですよね。へへへ」

「…防犯すか。この会社で俺、ひたすら座ってるだけっすよ」

「ヒャハハーッ。あーた、それを言っちゃイケない。あーた、それは駄目ですよ。殺されちゃいますよーっ。ヒャーッ」

M策はツボに嵌った様子で、暫く笑い転げていたのだ。