18時30分、それが言い渡された集合時刻だった。一人の先輩が焼肉を奢って呉れるらしかった。無料肉の宴、男は行かない理由が無い。ここ二年程、経済状況を主たる因として、焼肉を食べる機会に恵まれていなかったのだ。
まだ、時間がある。適当な喫茶店で珈琲を飲みながら本を読む。そうしよう、と心に決め、百貨店内で喫茶出来る場所を案内板で探す。
本館5階「喫茶インザガーデン」さんに入る。紅茶専門、イギリス伝統菓子と謳っているが看板のブラックボードを読めば珈琲もあるようだ。店頭にウサギを象った小物などが販売されている。妖精や小人が登場するユーロップのメルヘンチックな絵本のような世界観を演出しているようだ。
イギリスの給仕の格好、所謂メイド服に身を包んだ女性店員が注文を取りに来た。ぴっちりした黒い肘辺りまでの袖丈のロンT、白いエプロン、シャンプーハットに似た形状のひらひらした白い帽子、着用しているのが妙齢の日本人女性だからであろう、男は給食係を思い浮かべた。
チーズケーキは小ぶりだ。三口で食べ切れるサイズだ。生クリームが添えられている。店員さんが手づから拵えているのだろうか、甘すぎずほんわりしており、ホイップしてから間隔が空いていないようだった。側の部分が程よいさっくり加減、しっとりしたチーズクリーム、美味である。
コーヒーもこれまた洒落た容器で提供された。カップに銀色に輝く細工が施してある。受け皿も銀色だ。しかし、本物の銀では無いらしい。とっても軽い。アルミニウムだろうか。受け皿は灰皿のようなシルエットだった。(店内は禁煙だ)頭に軽く打ち付け大阪名物パチパチパンチを試みた。島木譲二氏の真似事である。表面が泡立つ珈琲は、上品なお味だった。
18時でオーダーストップらしい。客はゼロで静かだ。2人いた店員さんの1人が先に仕事を終えたらしい。「お疲れでーす」と言いつつ、普通の団地妻みたいなカジュアルな格好で店を出て行った。カウンターの内側で残った店員がなんらかの作業に従事している音だけが響く。音楽は流されていない。店員氏とタイマンだ。あまり落ち着けずにスマホを弄ぶ。
聞こえるのは、きっと閉店作業の音なのだろう。席を立つ。本は3ページしか読み進められなかった。
ティールームインザガーデン (紅茶専門店 / 西鉄久留米駅、櫛原駅、花畑駅)
昼総合点★★★☆☆ 3.6