「第十二回 岩屋城跡」「はあ?爪切り、クルマ無いと?女とかクルマあったら一発たい!夜中、山奥まで走って誰んおらんとこでクルマば駐めてシートば倒してから…」19歳だった。免許を取ってすぐに親から車を買って貰ったらしい友人が語った。「山」イコール「デートスポット」。そういう図式が頭に焼き付いた。それから数年後、遂に購入した車は、オープンツーシーターの軽自動車だった。リクライニングが、ほぼ不可能な狭い室内で、夢は叶わなかった。で、山に登った。所要時間、片道30分の軽い運動、低山トレッキングである。カップルなら、健全なデートになることだろう。普段着で黙々と登る自分は、孤独な虚無僧気分だった。「岩屋城跡」である。太宰府政庁跡の北側、太宰府市民の森を抜けた辺りに位置する。素晴らしい眺望である。戦国時代末期、熾烈な戦いがあった場所らしい。なかなか険しい道のりだった。蛇に驚かされた。噛まれたら嫌である。猪も出るらしい。タックルされたら嫌である。道なき道をぐんぐん進む。一旦、車道に出る。車高を落とした黒いオデッセイが低いギア、社外品らしいマフラーの排気音を轟かせ、かなりのスピードで走り去っていった。健闘を祈る。ちなみにこちらは、武将「高橋紹運」の墓である。