無事、生理的欲求を満たした箸山は、列に並び会費三千円を支払った。首にかける紐が付いた8番と書かれた番号札を受け取り、席に着いた。
奥行きのある部屋、左右それぞれの壁際にソファ席が一列づつ伸びている。突き当たりには大きな窓、林立する帝神のビル群の灯り、電光掲示板が煌々と輝いている。その窓際に木目調のカウンター席らしきものも設えてある。
女性陣は、みな壁際ソファ席に座り、男性は小さなテーブルを挟んだ、その対面の簡素なパイプ椅子に腰を下ろしている。男性が移動しなければならないためだろう。
箸山の正面には既に女性が座っていた。黒い半袖ニット、腰の辺りがくびれた黄土色のスカート、30後半位だろう、化粧が濃くて真っ白けだ。綺麗な顔立ちだったが、ローカルタレント崩れといったところか。おそらく趣味はホットヨガ、海外旅行でブランド品を買い漁る、などに決まっている。金がかかりそうだ、俺には手に負えん、てか先方も興味無いだろう、箸山は話す前から目の前の1人を諦めたのだ。
観察しつつ、テーブルに置かれた自己紹介カードの記入を始めた。細かい字で一心不乱に空欄を埋める作業に没頭する。と、箸山は視界に男を捉えた。
野球帽にメッシュベスト、さっきの釣り人である。釣り人は箸山の右隣りに腰を下ろした。近い。肘が触れる距離だ。箸山はギョッとしつつも、反射的に軽く会釈した。
「あー、こういうの、よく来るんですかあー」
釣り人は周囲を省みない野太い声で話し掛けてきた。おお一杯書いとる、なぞ無遠慮に箸山のカードを覗いてくる。
面倒臭いことになりそうだ。箸山はこれからの展開を悲観した。(続く)