ヤバい。居た。
斜めに射す朝陽がアルミ缶に反射して眩しい。
軒下に設置された三つの灰皿、一番左の横に、やはり、爺いは、紙パックの鬼ころしをストローで飲みつつ、地べたに座り込み、煙草を吹かしている。
折角、先輩に勧められた一服休憩を無駄にしたくない。何より、喫いたい。意を決し、爺いの隣りへ陣取る。無視すれば、大丈夫だ。自分に言い聞かせる。
「おお、兄ちゃん。よかジャンパーば着とるの。皮の。それ、六千円くらいするやろ」
堪らず吹き出してしまった。ああ、もう駄目だ。じっとり澱んだ目つきの爺いは、俄かに、生気を取り戻す。格好の獲物を見つけ、歓喜の色をありありと滲ませた顔付に変わる。
爺いは嬉々として語り始める。
「寒かのう。俺も兄ちゃんごたるジャンパーば買わやんの。いらんこつ言ってごめんの。俺はアル中たい。そこの橋の下におるったい。仲間のみんなおらんごつなってしもうた。今は俺一人たい。寒うしていかん。話し相手がおらんとよ。子どもがきたらチョコレートばあげよるばい。あいー寒か。昨日は温泉に行ってきたばい。高かのう。六百円もしたばい。自転車で行ってきたとよ。橋ば渡りよったらくさ、警察が後ろからずいーっとついてきよってから『これあなたの自転車ですか?』ち、馬鹿が!警察が!こないだ妹から電話が掛かってきた。『兄ちゃん今どこにおっとね。たいがいにしとかんといかんばい』なんが、たいがいにしとかんといかん、か!誰に向かって口ばききよっとか!ごめんの。いらんこつの。年金ば二万貰いよる、もう二千円くらいしか残っとらん。食い物は部屋に一杯あるばってんな。嫁子とも別れてしもうた。子どもは二人おる。もう連絡とりよらんばってんな。ごめんの。いらんこつばっか言っての。俺はアル中たい。アル中ばってんが、酒ばやめきらん。ざまなか」
爺いの話は終わる気配が無い。立ち去るタイミンングが掴めない。煙草は、とっくに吸い終わっている。