・和久井家と 結納 ①
その日はまずまずのお天気。
「良かったわ、雨でなくって・・」
美容サロンの時間までに朝の支度をしなくては・・ と 気だるい身体で起き上がり、ダイニングの方と足を進める。
” 顔合わせだけと言ったって、娘の顔もたててあげないと・・”
・・なのに 先ほど 早めに目が覚めた主人が・・
「由香のことだもの・・もう とっくの昔に 男と女のことは済ませているよな・・」
などと言いながら、妻である 由布子の弱いところを知っているかのように・・
攻められ・・背後から 抱き寄せた身体を離すことなく、しつこいほどに責め立てられ・・
「・・おねがいっ・・もう ゆるしてっ・・」
五十を前にする主人ではあるが、濡れた舌先は妻の身体を責め立て 弱いところを
知り得た指先は、由布子の喘ぐ様子を楽しむかのように・・身体の奥を弄る指先 。
・・しとどに濡れたソコは 難なくオトコを受け入れ、、その気持良さを・・
まんざらでもなく、私自身が楽しんでいることも事実ではあるの ・・。
「先日二人で挨拶に来たかと思ったら・・もう次の休日には・・
結納を 収めさせて頂きます だって! 」
どうして そんなに、 急くんでしょうねぇー 。 まさか・・マ ・ ・
「だめっ・・美容室の時間に遅れる わっ、、これもパパのせいですよっ」
・ ・ えっ・・お父さんの (せい)って、、
ぁぁ・・ ニコッとした微笑みをもって 送り出す由香。
お母さんだって、まだ四十代の 女盛りなんですもの・有って 当然よね 。。
自身の事だから と、、忙しなく家事に精を出す 由香。
やはり、このような日は・・抹茶やお煎茶よりも・・玉露ですよね・・
玄関横の和室にお招きし、上座に お座布団を並べてさえ置けば・・
いつに日にか言ってた母の言葉。
父と自分たち夫婦の事を思いだしたこと、母さんが言ってた、、
”今時のこと、このようなことは簡素化してもいいことなのよ。結婚したって、、
半数近くは別れてしまうことだってあり得るんですもの・・”
・・だけど、いざ娘のことともなれば、思いでのひとつとしても、やってあげたい
親心にもなり・・
「そう・でも、私たちの時は有ったのよっ」って 母さんが独り言のように言ってた。
その時は多くの品々・・結納式って、金糸銀糸の装飾品とか・・
それと指輪や、ご両親様への手土産など。その時さえ簡素化されたとは故。
形だけのもので済まそうとはするも・・手塩にかけた大切な娘さんをいただく
となれば・・ とか なって・・ ん 百万で 買われたかのようなこの身体・・。
” 由香さんと結婚することを お許しください。”
「 それだけで いいのよ。」
「た だ い まぁ ー 」
ヘヤーサロンから帰った母に眼をやると、お着物にマッチするかのように、髪はUPに
纏めあげ・・それは、、まだ四十代にもなってはいないかのような・・
二人の娘さえ、 驚くかのような若さを醸しだしている。
入れ替わるかのようにヘヤーサロンに行った由香も、、しばらくして帰って来ては母の傍に立つと、、「やはり、お母さんの娘でよかった わっ」
「お母さん いいのよ。それほどに気を使わなくても、、綾乃お姉さまの時には省略しているのに・・私ばかり申し訳ないじゃない」
両親を想い、姐さんをも想い・・人を思いやれる末娘 由香 の想いやる気持ち ・・
先ほど 我が家を知り得ているかのように、お姉さんと、夫である裕樹さんもお越し
くださり、「本日は、お日柄も良く・・」 「まあ こちらで、、 お茶でも・・」
お茶をいただきながら でも、 聞いていて・・ついて出る綾乃の口からは、、
「・・ほんとよネ。 私とはずいぶん差があって、娘の値打ちに合わせたなんて言わ せないわよ」
呟く お姉さんをなだめるかのように・・
「向こう様が、ほんの形だけで申し訳なくって・・でも、是非っておっしゃるんです もの」
ふたり並んで立つ、母さんと 由香。
「お母さん、娘に負けないくらい 綺麗ヨ 」
淡い 藤 色に 紗の着物。オフホワイトと薄青く浮き出るリンドウ柄の帯を着けた、
母の着物姿。
「お母さんも、久しぶりの夏着物よね。すごく素敵よっ・・」
まんざらでもない と見おろす自身の着物姿。・その 上げた顔には微笑みまでも・・
「でも 由香ちゃんだって綺麗よ。 いかにも生娘ぶって、、こんなに淡く、綺麗な
ピンクの着物を着ちゃってさ・・私は半袖ワンピドレスでいいんですから、、早くから予約を入れた美容室でのセット・・これで別れるとでもなれば両親の遺産は私に
頂き、、それに老後の介護は妹の由香ちゃんにお任せ・・これで 決まりネ」
皮肉や、嫌味な言葉が綾乃姉さんから出るのは、少なからず嫉妬の心の現れなんだわ。 も~う・ いいわよっ。洋介さんさえ居れば、・・彼の全ては 由香のものなんだから・・。
「別れるとか遺産なんて、縁起でもないこと言わないでよっ・・いつかは、もっと
見せつけてやるんだから・・」と 由香は左手の指に填まる 指輪に眼をやる。
「あっ・タクシーが来たワ。ご祝儀をお渡して、そのまま一時お待たせのこと
お願いね。その車で、ホテルでのお食事となってるのよ。」
ホテルでの披露となる高膳三宝に載せられた【 結納金と結婚指輪 】 たとえ簡素
と願われても、これまでも お綺麗に育て上げられた娘さんをいただくともなれば、
と・・
今、この和久井家には、ご挨拶と お迎えの下打ち合わせ・・
披露されるお品は 【 結納金と結婚指輪 】 バックに・ヒール。時計にはロゴ入り
とも・・ご両親様へのお土産としてまでも。 この品々がホテルのテーブルに・・。
父・神野雅之、、その横に座るは 神野洋介。
上座に座る二人を見た由香は・・フィアンセ と目を合わすと 片目を瞑って 微笑みを 送り・・、
それに 応えるかのように・・
微笑みをもって小さく頷く洋介。 人生で一番嬉しく思える時でもあるかのように。