ミスターH その3 | Final Notice
 初めてダーツを投げるHに対して、ルールを説明しておこうと思ったが、多くのことを一度に教えると覚えきれないだろうと思い、最低限の知識だけをHに教えた。Hはうんうんと頷きながら聞いてはいたものの、理解しているのかどうかは確信が無かった。
 
 最初は誰でもそうなるように、Hも例に漏れず盤の外にダーツを飛ばしてしまったり、思ったところにダーツを投げることがでずに四苦八苦しているようだ。

 ただ、何回かCount UPをするうちに大分打ち解けてきて、『たのしいね』と言って時折笑顔を見せるようになった。クリケットをしているときは、『次、どこを狙えばいい?』と言ってアドバイスを求めてきたりして、積極的にゲームに関わろうという姿勢を見せていた。

 マスターが、最初にHの隣に私を座らせた時はどうなるかと思ったが、やっと打ち解けてきたようで安心した。おそらくマスターが私に期待していたことは、こういうことだろう。上手いやり方だったかどうかは疑問が残るけど、なんとか使命を達成したと思った。

 Hも楽しんでくれたようだし、コレで安心して家に帰れる。そう思ってその日は店を後にした。


それから1日か2日たった日、Hはまた1人で店にやってきた。おう!と挨拶して、いつもの仲間とするときと同じように、Hをダーツに誘ったのだったが、そこでその場にいる誰もが驚くことが起こった。

HがそのCount UPでいきなり660点を叩き出したのだ。

始めたばかりの初心者なら、300点か運が良くても400点くらいで、500点を超えることは稀なのにいきなり660点は信じられなかった。

バーでは初心者が500点を超えるとマスターがマイダーツをプレゼントしてくれる。Hは来店2回目にして、あっさりとマイダーツを持っていき、嬉しそうに笑っていた。

そしてそんな風にしているHを見て、自分もなんとなく嬉しくなった。

 因みに私は半年ほど前、Hのようにしてマイダーツをもらう前に、我慢できずに自分でダーツを買ってしまい、以後永遠にマスターからマイダーツをもらうことはできなくなったのだった…。


つづく