岩田健太郎の『食べ物のことはからだに訊け! 健康情報にだまされるな』 | 北海道発・生活問題を考えるブログ

岩田健太郎の『食べ物のことはからだに訊け! 健康情報にだまされるな』

岩田健太郎の『食べ物のことはからだに訊け! 健康情報にだまされるな』

 

 健康「トンデモ」情報に振り回されることなく、自分のセンサーを磨き、からだに訊いて判断しなさいと教える新書。

 

 アマゾンの書評コメントを読む限り、評価は両極端に分かれます。「良書」と高評価をする読者がいる一方で、「悲しい」、「だめだこりゃ」とそのひどさを書かずにはいられないコメントもあります。正直なところ私は後者に近い感想をもちました。

 

 今回は何が問題なのか。低評価につながる理由は何か。それらの読みどころを探っていきたいと思います。

 

 まずは、著者のスタンスです。本書執筆のきっかけは、「いわゆる」糖質制限食にあったと著者は「はじめに」に書いています。著者の専門は感染症ですが内科医でもありますから、医者の立場で専門家としての評価をしてくれるのだと読者は期待します。

 

 ところが、書いている内容はとても医者のスタンスとは思えない。糖質制限を実際にやってみた自分の体験、ご飯をよくおかわりをする家人の例など身近な例を挙げていますが、何の説得力もない。

 

 内科医だと名乗っているだけに、かえって不信感を抱いてしまいました。著者の批判する健康「トンデモ」本と本書はいったいどこが異なるのでしょうか。

 

 次に気になったのは、杜撰な引用です。糖質制限食を取り上げるからには糖質制限食に関するすべての文献に目を通していると思ったのですが、どうやら話題になった本をさらりと読んでいるにすぎない、と疑いたくなる箇所がいくつかありました。

 

 本の引用がたくさんあって、よく調べて根拠も確かだという印象を読者に一見与えます。しかし実のところ、自分の都合の良いところだけ用いる高等テクニックを駆使しているのではと思えるのです。それだけにいっそう罪深い。

 

 糖質制限食は、治療食として研究が進められ、改良されてきています。江部康二の活字になっているものを追いかければ、その変化はわかります。

 

 病院の給食部と連携して進化してきてもいます。治療食としての糖質制限食を他の健康「トンデモ」本と並べて論じるところに、江部らの推奨する糖質制限食までもが「トンデモ」情報のひとつであると誤解されかねない。そんな印象を読者に与えているのです。

 

 そして、最後は「どっちでもいいじゃん」という結論。これではまったく拍子抜けしてしまいます。以下に一部引用します。

 

そろそろ、結論です。糖質制限によって長生きできる、という保証は(少なくとも現時点のデータでは)なさそうです。かといって、糖質制限をするとバタバタ早死にする、というわけでもなさそうです。長期的には「どっちでもいいじゃん」ということになります。

 

さて、糖質制限は長生きだけを目標に行われているわけではありません。ダイエット目的に行うこともあれば、病気の治療に、例えば糖尿病の治療の一助として行うこともあるでしょう。

 

とすればです。一番良いのは「自分で試して確認してみる」ことです。

 

(岩田健太郎『食べ物のことはからだに訊け! 健康情報にだまされるな』ちくま新書、2015年、035~036ページ)

 

 

 この続きにはこんな文章も出てきます。「ダイエットにしろ糖尿病にしろ、すぐに結論をつける必要はないのです。糖尿病は2、3日で完治しなければならない病気ではありません(完治しませんし)。」(037ページ)

 

 糖尿病患者や糖尿病に関する医療従事者でなくても、不快さを通り越してあきれてしまったのでありました。

 

 アマゾンには「ブックオフ一直線」というコメントもありましたが、本の深読みを強いられる絶好の教科書ととらえることもできます。

 

 読者の読解力を鍛えてくれるのです。健康「トンデモ」本の特徴を巧妙な表現力でまとめている上級者向きの一冊、といっておきましょう。