暗く寂しいハイウェイ
涼しげな風に髪が揺れる
マリファナの香りがほのかに漂い
はるか前方にはかすかな灯りが見える
頭は重く視界はかすむ
どうやら今夜は休息が必要だ


 1週間くらい前に、メキシコのバハ・カリフォルニア南部にあるTodos Santosという小さな町にいた。俺は小ぎれいなモーテルに3日ほど滞在していた。700kmほど北のSan Juanicoという町から丸一日砂漠を走ってちょうど帰ってきたところで、暗くなり始めて他に探すのも億劫だったので往路でも1泊していたここでしばらく休むことに決めた。この宿は一切デスクエント(discount)してくれなかったが、値段の割には広く、綺麗で立地も良かった。

オーナーはこのブロックの土地の持ち主で、ホテルの並びにランドリーやマーケットもある。2ブロック歩くとCosta AzurというLos Cabosにあるサーフショップの姉妹店もあったのだが、残念ながらこの店は俺を最後の客にして閉店してしまった。


 そんな話はどうでもいいんだが、その向かいに少し高そうなHotel Californiaというホテルがあった。安宿やキャンプで過ごしていた俺はアメリカ人向けのリゾートかと思っていたが、独特の雰囲気があった。暗くはないが少し不気味で、廃れてはいないがポップではない。

「チェックアウトは何時でも構いません。
 ただあなたがここから立ち去ることは永久に出来ませんよ。」

 今になれば、この土地ではアメリカ人かメキシコ人かなんてのはあまり重要ではなくて、みんながカリフォルニア人、つまりLos Angeles出身かSan Diego出身か、EnsenadaかCabo San Lucasかの違いなのだということは分かる。カリフォルニア州(U.S)、北バハ・カリフォルニア州(MEX)、南バハ・カリフォルニア州(MEX)の3州で「カリフォルニア」という土地は分けられる。アトランタに行っても分かったけど俺はアメリカが好きなんじゃなくて、カリフォルニアが好きなんだ。

 イーグルスのドン・ヘンリーも恐らくそういう枠でカリフォルニアという土地を意識していて、砂漠を走ってかつてこの町に辿り着いたんだろう。そしてこのホテルでその獣の存在に気付いたのだろう。


鏡を張りめぐらせた天井
グラスにはピンクのシャンペン
誰もが自分の意思で囚われの身となった者ばかり
やがて大広間では祝宴の準備がととのった
人々は鋭いナイフを突き立てるが誰ひとり内なる獣を殺せない

気がつくと僕は出口を求めて走りまわっていた
もとの場所に戻る通路をなんとかして見つけなければ・・・


 バーテンダー、俺のスピリッツは切らさないようにしておいてくれ。