あとがき(小説『なりたい自分』) | Kのガレージ

Kのガレージ

“書く”ということを続けていたい。
生きたという“あかし”を残したい。

 実は、まったく別のテーマで次回作を2〜3話程度書き進めていたところだった。それを途中でストップしてでも、この『なりたい自分』を書くことにした。

 

 「くすぶっている人」を書きたい、というのが、ずっと漠然と自分の中にあって、ずっと胸の奥底に留まっていた。それを形にして世に出したいという思いがあった。それはこの小説を書くための直接的な原動力でもあり、最大の理由でもあった。

 くすぶっている人、うまくいっていない人、パッとしない人、日陰の人、日の目を見ることのない人——。そんな人を主人公にした物語を描きたい、そう思っていた。

 僕もそうだし、そういう人は多いだろうし、もしかしたら大多数の人間がそうなのかもしれない。実際のところ「くすぶっている人とくすぶっていない人との割合はどれくらいなのか」なんてことには興味はないし、同一人物でもくすぶっている時期とくすぶっていない時期があったりするし、くすぶっている部分とくすぶっていない部分が混在していたりもするし、そもそも何をもって「くすぶっている」とするのか、そういった禅問答的なテーマにも転がっていきそうで、それを追求するつもりも毛頭ない。

 

 ただ、うまくいっていない、思い通りにいかない、そんな人とか、そんな時期にだって、うまくいっている人や物事がうまく進んでいる時期と同等の価値がある、僕はそう思っていて、それを書きたいと思っていた。

 “水面下の苦労”とか“下積み生活”みたいなテーマではなくて、あくまで日常的に、ありふれた日々の中における「うまくいかなさ」を描きたかった。

 

 漫画家の荒木飛呂彦先生は、代表作にして名作である『ジョジョの奇妙な冒険』において、「人間讃歌を描きたかった」と仰っている。「神様や機械ではなく、人間こそが一番」なのだ、と。

 その人間について、僕はこんなことを描きたかった。

 人って、思っているよりもダメだったり、ダサかったり、ズボラだったり、みっともなかったり、カッコ悪かったり、落ち込んだり、ヘコんだり、うまくいかなかったり、するよね——。

 人のそういった一面をありのままに描きたい、そういう思いで書いたこの『なりたい自分』は、僕なりの人間讃歌の一つだ。

 

 結果、展開も結末も僕の想像を遥かに超えるものになった。想像だにしていなかったと言うのが正直なところだ。孝之と冴子たちが僕の脳を使ってこの小説を完成させた、そんな感覚を抱いている。プロットのようなものを準備して書き進めてはいたけれど、登場人物たちに導かれるまま書かされて、こういう展開になって、こういう結末を迎えた、そんな小説になった。

 だから、孝之と冴子には感謝している。書けなくなって、完全に筆が止まって、何も思いつかなくなって、路頭に迷ってしまっても、孝之と冴子は僕に書くことをやめさせなかった。いつも二人は僕に何かしらのヒントを与えてくれた。不思議だった。そして、

 

 「小説を書くことって、こんなに面白いことなんだ!」

 

 最後にはそう思わせてくれた。小説を書く前の自分じゃ体験できないことだった。そういった意味でも、『なりたい自分』を書いて本当によかった。

 書いている最中は、この後の展開はどうしたらいいんだろう?とか、散々頭を悩ませて書くのが苦しい時期もあったのに、最終話を書いている時に、「ああ、もうこれで孝之と冴子に会えなくなるんだ……」そう思ったら、書き手のくせに、僕は勝手に感傷に浸ってしまって、胸が締めつけられるほど切ない気持ちになりながら、最終話を書いた。それぐらい、『なりたい自分』は僕にとって大切な作品になった。そしてそれもまた、小説を書く前の自分じゃ経験し得ないことだった。

 

 

 

 『なりたい自分』を読んでくれたすべての皆さん、「いいね」をしてくれたすべての皆さん、このブログをフォローしてくれてた、そしてフォローしてくださっているすべての皆さんに、心から感謝します。皆さんのそれらの一つひとつが、とても大きな励みになりました。本当にありがとうございます。

 小説の執筆は、しばらく休みます。次の小説を書き始めたら、またどこかの誰かが読んでくれるのを楽しみに、何よりも書くことを楽しみに、小説を書き続けていきたいと思います。これからもよろしくお願いします。

 

 

K

 

 

 

 

 

小説『なりたい自分』

どこにでもいるアラサー女子、冴子。

売れない音楽クリエイター、孝之。

ひょんなことから出会った二人は、とある曲をきっかけに、

思いもよらない経験をしながら、

自分自身と向き合っていく。

↓第1話はコチラ↓

(※物語は全てフィクションです。小説に登場する人物等は全て架空であり、実在の人物や団体等とは関係ありません。)