御朱印ならぬ「御船印」が人気 40社集めると「船長」の称号も〈AERA〉

10/13(水) 16:00


お寺や神社でもらえる「御朱印」に船バージョンが登場した。その名も「御船印」。地球の歩き方編集部が手掛ける公式ガイドブックでは御船印のバリエーションや参加社マップのほか、船の種類や地域別の船旅の楽しみ方などを徹底紹介しているという。AERA 2021年10月18日号では、新たな船旅のスタイルを関係者に取材した。


 各地の船会社が船や航路ごとに独自に発行する「御船印」。一般社団法人日本旅客船協会の公認事業として4月にスタートした。船の印を集めるための旅を「御船印めぐり」と名付けたのは、同協会の船旅アンバサダー・小林希さん(38)だ。

「船に乗ることを目的に旅先を決める。そんな旅行をする人たちが出てきてもいいんじゃないかなと思いました」

 小林さんは大の旅好き。学生時代は沢木耕太郎の『深夜特急』や藤原新也の『印度(インド)放浪』を読み、海外を漂泊した。旅の魅力を伝える本づくりをしたくて、就職先のサイバーエージェントでは出版事業の立ち上げにも関わった。仕事にやりがいを感じたが、忙しくて自分が旅に出る時間がない。渇望が抑えられなくなった29歳の時。退社した日の夜、愛用の一眼レフを手に世界放浪の旅に出た。

■船旅の見送りに感動

 約1年間でアジアやヨーロッパ、北アフリカを回った。現地の人と仲良くなり、自宅にしばらく住まわせてもらったことも。帰国後、旅の体験をつづった著作を刊行。執筆中も南米大陸を3カ月間めぐった。

 放浪中に猫の写真を撮り続けていたという小林さん。国内も旅するようになり、「猫と出会えそうな場所」として浮かんだのが島だった。「海外でも猫がたくさんいる所って人もやさしく、穏やかな印象があったので行きたいなと思いました」

 讃岐広島という瀬戸内海の島を訪ねたのが2014年。島の人たちが過疎化や高齢化と向き合っているのを知り「何とかしたい」と考えた。古民家を宿として再生するプロジェクトを有志で立ち上げ、毎月、島に通って交流を深めた。船と密接に関わる島の文化や歴史も学んだ。

一番感動したのは、フェリーで島に到着するときと帰路に就くとき。島の人たちが港に迎えに来てくれ、帰りは船が見えなくなるまで見送ってくれた。その姿は、世界を放浪していたときの感動に勝るものがあった。

 日本旅客船協会と日本政府観光局の事業で、日本の離島を海外に紹介する取材をしたのがきっかけで、19年11月に協会のアンバサダーに就任した。離島をめぐって「御朱印」を集める人、航海や海上安全を祈願する神社が多いことに気づき「御船印」のアイデアを思いついた。「船バージョンの御朱印があればそれが旅の目的になり、乗船者が増えれば航路の存続にも寄与できると考えました」

 御船印の参加社は、北海道の利尻・礼文島から沖縄の八重山諸島の船会社まで59社(9月時点)。コロナ禍で船舶業界も一層厳しい状況に置かれている。

■40社集めると「船長」に

 地球の歩き方編集部が手掛ける公式ガイドブック『御船印でめぐる全国の魅力的な船旅』(学研プラス刊・1650円)も8月に発刊された。担当の日隈理絵さん(38)は御船印のバリエーションをアピールする。

「それぞれの土地や船の個性を凝縮したこだわりのデザインが御船印の魅力です。船旅といえば豪華客船みたいなイメージがあると思いますが、生活航路や遊覧船などいろんな種類があることも紹介しています」


 御船印は、ターミナルのチケット窓口や船内で買える。300円から。20社分をめぐると「一等航海士」、さらに40社分集めると「船長」の称号が得られる。4カ月間で約1万3千枚の御船印を販売した。「船旅をしてみると、知らなかった景色や人に出会える再発見があると思います。最近は船内にプラネタリウムや露天風呂がある客船も。船自体も楽しんで」(小林さん)

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2021年10月18日号