眩しい灯りが灯っていたのはシャンデリアが立派な応接間でした。
机の上には私宛のメッセージカードが置いてありました。
週末お母様がいらっしゃるときにはこの屋敷はどうぞご自由にお使いください。なお鍵はお母様がお帰りになったらばここの玄関に置いてください。
まるで猫が爪で引っ掻いたような金釘流の文字でした。
不思議には思ったものの
何しろ週末の母の訪問には困っていましたので
藁にもすがる思いでありがたく屋敷を使わせていただきました。
その後私がこの体験を出版社に話したところ、担当者が面白がってファンタジーを書くように薦めてくれました。
その作品はベストセラーとなり、数年後には私は売れっ子のファンタジー作家になっていました。
本当にお屋敷を手に入れて母親にも嘘をつかなくても良くなっていました。
ある日ふと思い立って、あの時のお屋敷を見に行ったのですが。
何度確かめても、そこはビルとビルの隙間の細い路地でした。
あの時の銀鼠色の猫は、それっきり私の前には現れていません。
お礼にといろんなキャットフードや猫のおもちゃを用意して今日も待ってはいるのですが。
おしまい