新聞配達中に見たのは?みらあじゅの恐怖博物館③ | 星導夜

星導夜

何気ない日常にも素敵なことが満ち溢れているように思います
日常のささやかなよろこび、楽しみを書き留めてみたいと思います

わたしは「恐怖博物館」の学芸員(キュレーター)をつとめるみらあじゅです。

ようこそ当恐怖博物館においでくださいました。  

私の創作した恐怖話がたくさん

この博物館には収められておりますよ。

「新聞配達中に見たのは?」

僕は若い頃に新聞配達のアルバイトをしていました。

新聞を配り終えると昼間には寝て、夕方になると定時制高校に通っていたのでした。

そんな有る早朝のことでした。

季節はそう、ちょうど今頃の梅雨時でしたか。

僕は新聞の束を自転車の荷台に乗せると、いつものように、担当地域の
T団地の前を通りました。

僕は1週間ほど前から、5階の踊り場から下の道路に向かって顔を覗かせている女の子に気がついていました。

年齢は僕と同じくらい、なかなか美人の子です。

時間は朝の4時、あたりはまだ静まりかえっています。

団地の踊り場の下の道を

僕は毎朝新聞配達のために通っているのですから、あの女の子は僕に気がついていると思うのです。

僕の心の中にはふと、ナンパができるのではないかという、けしからぬ下心が芽生えはじめていました。

今朝のことでした。
僕は思い切って声をかけてみました。

「ねーねー彼女。いつもそこで何見てるのさ?」

するとその女の子はいきなり驚いたような表情になりました。

そして僕にまっすぐに向けたその顔。

なんと、両眼のあるべきところが

ぽっかりと黒い空洞に変わっていたのです。

「うわぁ、何なんだ」

僕は悲鳴をあげると、一目散に自転車を漕ぎ、その場からほうほうのていで去りました。
そのままだと、黒い空洞に飲み込まれてしまいそうな恐怖感があったからです。

その日僕は新聞屋の店主に泣きついてT団地の担当から外してもらいました。

店主は何も追求せずに、僕が泣きついたことを認めてくれたのでした。

しかしその日以来、新しい担当となった配達員も2度とその女の子のことは見かけていないとのことでした。

作者より

この作品に出て来るT団地とは、今住んでいらっしゃらる方には申し訳ないのですが、東京の高島平団地 をなんとなくイメージして書きました。

この高島平団地は飛び降り自殺が多く、ネットで調べると自殺の名所なのだそうです。

この話はあくまでも私の創作なので、踊り場に怪しい少女が早朝出現したかどうかは謎です。