聖なる夜の魔法 ラルゴ館奇譚Ⅵ | 星導夜

星導夜

何気ない日常にも素敵なことが満ち溢れているように思います
日常のささやかなよろこび、楽しみを書き留めてみたいと思います

これは、ラルゴ館シリーズの本伝のエピソードに当たる。ナンバー表記をローマ数字に変えてみたのは、レトロ感を出したいと言う作者の願いで有るが、最初にナンバー表記をローマ数字に設定しなかったのは、作者が深く考えていなかったことに依る。
 なお、このエピソードはクリスマス特別編として前中後編に分けた。           
【前編】
12月23日。
クリスマスイブの前日の夕方。
私は本屋での仕事を終えると、ダッフルコートのポケットに手を突っ込み、足早にラルゴ館への道を急いでいた。

故郷を飛び出してから迎える1人ぼっちのクリスマスイブを思うと、仕事中店にクリスマスソングのBGMが掛かっていたことや、プレゼント包装をすることは気が重かった。
それでいて、とねりこ駅前の流星デパートで両親へのささやかなプレゼントを買い求め、地下で1人分の惣菜と、苺のショートケーキ🍰を仕入れてラルゴ館に戻る時には、冬の短い日は暮れていた。

ラルゴ館入口の石段に、奇妙な老人が腰をかけて、何か呟いていた。

もじゃもじゃした白髪と髭の、でっぷりと太った外国人の老人だ。しかもこの寒いのに、リネンの寝巻姿だ。

放置する訳にもいくまい。

「どうしましたか?交番に一緒に行きましょうか?」
何処の國の人かわからないが、英語で話してみる。

老人は、蒼い瞳を一杯に見開いて、怯えた様子で首を横に振った。

途方に暮れる私の耳に、あの何者かのささやき声が聞こえた。

「みらあじゅ、自分の部屋へ連れて行っておあげよ。」

そうするしかない。しかし私の部屋は最上階にある。

疲れている時には若い私も、エレベーターなしの階段は堪える時がある。ましてやお年寄りではえー

躊躇っている私に、老人はにっこり笑って階段の奥を指差す。

なんと

ある筈のないエレベーターがそこに姿を現していた。

レトロな格子戸のエレベーターが。


続く