美味しい天麩羅を食べようと思えば、懐と相談してからという世の中になった…近ごろ、天麩羅は高級料理になってしまった。

 が、嬉しいことに、美味しいのに安いという、店がある…コストパフォーマンスでは、最高ではないかと思っている。

 そこは京橋…国道一号線に面する表通り、銀座通りのはずれと言った方が良いが、警察博物館のそばにある。

 何時も大行列の、鰺フライで有名な松輪の隣で、天ささという。

写真:階段七段上がると天ささ & 左緑は大行列店松輪。

 ビルの一階というが、階段を七段も上るから、実質、中二階、いや中一階と言うべきか。

 階段途中でノレンをくぐると、カウンター八席ほどの、こぢんまりとした店で、70才を超えたであろう、親方が一人で切り回している。

 親方は、毎朝自転車で豊洲に仕入れに行くそうだ。

 天ささの昼メニューは,単純明快、選ぼうと思っても、一種類しかない。

 特選天重のみ…そして値段が判るとビックリする…今どき銀座で850円?と耳を疑う安さなのである。

 安かろう、悪かろう、は世の常識だが、天ささは、この常識からは外れているようだ…旨いのだ。

 お茶はセルフサービスだが、850円だから、文句を言う人はいないようだ。

 揚げてる様子が見える、カウンター席は楽しい,揚がると、皿に敷いた和紙の上にソッと置いてくれる。

 目の前で揚がったばかりの海老を、塩で食べるなんざぁ、至福の一時である。

 〆は、小ぶりの器に盛った天重ということになるが、これまたなかなかのもので、食べて良かったと思うことだろう。

 天麩羅を揚げているときの、親方の顔は気難しそうだが、話しかければ破顔一笑、親しみやすい顔に一変する。

 ちなみに、天ささという店の看板文字…上手だと思ったら、書家が書いたものらしい。

 そして、昔は酒を飲みながら天麩羅を、という普通の天麩羅屋だったのだろう…というのも、{天}は天麩羅の天の字で、{ささ}は、酒を指すササなのだそうだ。

 夜は知らないが、夜は酒を飲みながらという、普通の天麩羅屋になるのかもしれない。

 とにかく、いまどき850円でこれだけの天麩羅が食べられれば、御の字である。

 でも、これで儲かるのだろうかと心配になる…余計なお世話かもしれないが。

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