長いあいだ、新橋にある新橋亭だから、シンバイシテイと呼んでいたが、そうではなことを知った。

 正しい呼び名は、新橋亭=シンキョウテイだった…30年ほど前、何かのおりに、支配人に「シンバシ亭」といったら「お客様失礼ですが・・」ということで、判ったのだ。

 だから私の新橋亭は、ほぼ20世紀中はシンバシ亭で、21世紀なってからは、シンキョウ亭になったのである。

 新橋亭は、老舗だ…創業が、昭和21年というから1946年、終戦の翌年である。

 が、その頃に、食べ物屋を開店できたというのは、不思議なことだった。

 戦争中からの物資の統制が戦後も続き、主食ばかりか、砂糖も酒も配給。全ての食材は市場になく、金があっても買えず、そうかといってヤミ市の食材は高すぎた。

 頑固で正直者の裁判官が、違法なヤミ食材を買わずに、配給だけで暮らしたら、栄養失調で死んでしまった、という新聞報道があったほど、食べ物はなかった。

 が、新橋亭のように開業する店もあった…戦前から日本に住む在日外国人、いわゆる第三国人という人達だった。

 特に食べもの屋では、支那=中国や朝鮮=韓国の人たちが多かった。

 そんな店では、米も麺も外食券なしで食べられた…間違いなく違法だが、摘発すると面倒なので、お巡りさんは見ぬ振りをしていたようだ。

 そんな頃に新橋亭が創業したのだが、創業者・呉宝祺は、福建省生まれ。上海で修行。昭和6年=1931年に目黒雅叙園に招かれて来日、総料理長を努めて、戦後独立創業した人物だった。

 新橋亭はあちらこちらに店があるようだが、わたしが行くのは新橋亭新館…新橋というか、内幸町というか、その中間にある。

 角地にあり、大きく立派で目立つ店だが、550席と言うから、大きくて当たり前…古くから政財界人御用達・宴会向きでもあるようだ。

 自慢は、フカヒレ姿煮だが、1万6000円もするので、いつも一人ランチだから、食べたことはない…わたしが好きなのは、ふかひれ土鍋麺。2010年代は2500円だったが、近ごろでは3000円くらいになったらしい。

写真:鱶鰭土鍋麺 & 客の好みを考慮パクチーは別皿。

 ここでのランチは、1700円ほどからだが、一応2000円強は覚悟したほうが、美味しいものが食べられる。

 名物で安いのは、シューマイ…富士山型が独特で、大きいから数個でお腹いっぱいになる。

 カキの土鍋麺は旨かったが、夏期限定の冷やし炒飯というのを、いつか食べてみたいと思っている。

 一人では駄目のようだから、仲間を誘って是非食べたいのが、佛跳=ホテッチャンと読むらしいスープ料理だ。

 あまりの旨さに、匂いを嗅いだ坊さんが、塀を跳び越えて食べに来る、というのだそうだ。

 長年食べたいと思って、上海や北京、香港、マカオなどで、機会あるごとに探したが、縁がない料理だった。

 初代店主・呉宝祺の故郷、福建省福州市の料理なのだそうだ…ちなみに、新橋亭の料理は、北京料理だそうだ。

 

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