コロッケそばって、知っていますか…それを食べられるのは、銀座の老舗よし田だ。

 コロッケとは、常識的には挽肉とジャガイモを丸めて揚げたものだが、よし田のコロッケはまるで違う。

 皮やスジを取り除いた鶏肉をミンチにして、山芋と卵で練り上げてから、油で素揚げをするらしい。

 だから、見ためからしてコロッケではない。きめ細かな大きなつくね様団子という感じだ…味覚は人それぞれだから、なんともいえないが、私は旨かった。

 この唯一無二と思えるコロッケは、丼に入ったそばの上に、旨そうな長ネギに囲まれて、供される。

 コロッケそばは、よし田の看板メニューだが、大正・昭和と人気が続く店らしく、何を食べても外れないが、巣ごもりと呼ぶ、揚げたソバにカレー風味の餡を掛けたのが旨い一品だが、メニューにはないから、聞いてみるといい。

 そもそも、よし田は、明治18年に浜町からの暖簾分けで、銀座に店を出した老舗だ…昭和の中頃、オヤジに連れられて行った店は、銀座七丁目の金春通りにあった。

写真:在りし日の旧店舗。

 ある日、店が閉まり張り紙が{厨房工事の為しばらく休業・当ビルも60才の年月・・}…要は、古くなり壊れたから直るまで待てということのようだった。

 が、しばらくすると、金網が張られ、解体工事の札になり、やがて売り地の看板になり「とうとう老舗も廃業か」とガッカリした…2015年頃だった。

 「コロッケそば食べたよ」と、友人から聞いたのが、2017年頃だった…別の場所で開店したと判った。

 新店舗は、金春通り、銀座七丁目の元の店から、昔電通通りと呼んだ外濠通りを越えて、首都高寄り六丁目の、ビルの二階にあった。

 鉄筋コンクリートのビル二階では、老舗蕎麦屋の風情はないが、見上げる窓に、昔懐かしい包み紙の絵柄が見えて、なぜかホッとした。

写真:新店舗/二階窓下半分に懐かしい包み紙のガラ。

 ちなみに、現在蕎を打つ息子は、2015年に店を閉めた老舗・上野池之端の藪で修行したと聞いている。

写真:閉店した名門・池之端の藪蕎麦/ここから各地に蕎麦打ちが散っていった。

 よし田については、こんなエピソードを聞いたことがある…俳人・小説家・劇作家として著名な、久保田万太郎の若かりし頃の話だ。

 よし田の二階の窓際で、芸者の品定めをしていたという…昔よし田の前には、通りをへだてて、芸者が勉学稽古をする、新橋芸妓学芸講習所というのがあったらしい。

 まだ新橋には高級料亭がある。昔.芸者が沢山い名残か、よし田があった金春(コンパル)通りには、いまでも芸者の見番が…見番ビルの地下には、旨い天麩羅屋・天亭がある。