ディーゼルにはないが、内燃機関には点火装置がある…ちかごろメンテナンスフリー化した車では、目にしたこともない人もいるだろうが、どのエンジンにもスパークプラグ=点火栓がある。

 その点火栓に高圧電流で火花を飛ばして、エンジンは回るのだが、1960年頃までは、この部分の故障が多く、また強力な火花を飛ばすのに苦労していた…で、いろんな用品・部品が開発された。

 一世風靡したサンダーボルトなども、その一つだが、発売元の日本自動車の倒産で消えてしまった…私は宣伝ほどの効果を認めていなかったが、一時ブームになった、

 1960年には、タコメーター=回転計が発売された…開発したのは永井電子で、商品にはスーパーより上位、という意味で、ウルトラと名が付けられた。

 回転計とは、当時MGやジャガーなど、スポーツカーだけのもので、一般乗用車には付いてなかったが、一部マニアはほしがっていた。

 回転計は、エンジンから直接フレキシブルケーブルで計器を回す仕掛けだから、後付け改造は面倒で費用も高く、やろうとする会社もなかった。

 それを電気で、と解決したのが、ウルトラ回転計だった…とびついたのがドイツの通販ネッカーマンで、最盛期には月に1万個を販売した…もちろん、少量だが日本のマニアもとびついた。

 そして、1963年に売りだしたのが、ウルトラ・トラジスタイグニションだった…それはフルトランジスタ型ではなく、セミトランジスタ型ではあったが、当時としては、革命的製品だった。

写真:スイス人がウルトラを愛車三代にわたり取り付けて走行497万㎞走って快調との感謝の手紙。

 

 それまでの点火装置は、エンジン回転に比例して断続する接点を流れる電流をコイルに流し、生まれた高圧を点火栓に送るという仕組みだった。

 で、火花で焼けた接点を1000~2000粁走っては、ポイントを磨いてギャップ調整。ついでに点火栓もカーボン除去した後にギャップ調整という、やっかいな定期的点検作業が必要だった。

 そこで、コイルに流れる電量を弱めれば、火花も弱まり、焼損も減るという理屈で、弱めた電流をトランジスタで増幅させたのが、永井式点火装置だった。

 当時発展途上のトランジスタは、ゲルマニュームだったが、やがて登場するシリコンに替わると、性能も品質も向上した。

 そして、トランジスタで電流の断続が可能になると、点火装置の邪魔者だった、火花発生の接点がなくった、フルトランジスタイグニションへと進化する。

写真:永井電子のウルトラ製品。

 ウルトラは、強運の持ち主だった…電子点火装置誕生と日本初グランプリ開催が一致して、いち早く目をつけたメーカーチームが採用した。

 以後、ハンシンGTスポーツコイルとのsetが、レースの必需品となる…つられて、スポーツ熱に浮かされた、一般ユーザーも、乗用車にまで付けるようになった。

 永井電子というか、ウルトラのウンの強さは、スポーツ熱だけではなかった…1967年に公害対策基本法が実施され、1969年運輸省が排気ガス規制とHC規制で、良好な燃焼が要求されるようになり、電子点火装置はこの方面でも…さらに追い打ちを掛けるように、1973年の石油ショックで、燃費改善が要求されると、また人気が上がるのである。

 永井電子のウルトラが誕生の頃、漫画界にも転機が訪れた…おそ松くん/赤塚不二夫、おばけのQ太郎/藤子不二雄、サイボーグ009/白土三平、その他カムイ伝、忍者武芸帳、8マン、ゼロ戦はやと、紫電改のタカ、忍者月光部隊など、数多くの漫画が登場する。

 で、それまでの漫画は、子供が見るものだったのが、大人が見ても恥ずかしくない時代が到来したのである。