33時間余を、睡魔と戦いながら飛び続けた、米国からパリへの一人旅…はるかに見えた街の灯で{あれが巴里の灯だ}の名文句が生まれるのは、世界初、大西洋横断無着陸飛行に成功した,リンドバーグの物語。

 1931年5月21日・午後10時…リンドバーグが目にした、その夜のエッフェル塔には、CITROENの文字とシェブロンマークが、25万個の電球で輝いていた。

写真:リンドバーグが見たエッフェル塔/提供シトロエン。

 シェブロンギア=傘歯歯車は、自動車屋になる前、シトロエンが傾いた工場再建で生産した、画期的ギアだった。

写真:シトロエンのシェブロンギア/パリ収蔵庫で。

 シトロエンとは、会社の名前…その会社の創業者の名前が、アンドレ・シトロエンということは、ご存じだろう。

 巴里の名物エッフェル塔を、広告塔にしてしまうあたり、シトロエンは、非常識を実行する商売人であり、宣伝上手でもあった。

 そんな彼が、売り出したのが、トラクションアバンという変な自動車だった…翻訳すれば前輪駆動だが「車は押すより曳くのが合理的」という理論だった。

 トラクションアバンが、誕生したのは1934年=昭和2年だった…今でこそ格好いいと思うかもしれないが、当時としては、見なれない常識外れ姿の、変な車だった。

 1950年代、桜田通・西久保巴町の寺山自動車が、かなり輸入販売した…親友の鍋島俊隆/SCCJが、11CVのファンで、1953年型を二台持っていたので、何度も乗ったことがある。

写真:親友ナベちんの11CV/鍋島夫人との対比で車高の低さが判る。

 パリからドゴール空港に向かう途中に、シトロエンの工場がある…その一角に、大きな収蔵庫があり、初代からの歴史的シトロエンが、400台も収まっている。

 1934年生まれのトラクションアバンも、20年間のシリーズのほとんどが顔を並べていた。

 11CVは、トヨタ博物館にも、1937年型のキレイな一台があるが、本家のレストアは素晴らしく、1939年型を収蔵庫前に引っ張り出してくれたので写真を撮った。

 1953年に、後部トランクが増えた形以外、変わったところがないのに感心した。

 優れた車は、時代を超越して生き続ける、のがシトロエンの持論と聞いたが、変えようとしない頑固者だった、とも言えよう…フォードT型のヘンリー・フォードも同類だが、シトロエンはフォードの信奉者だった。

 四隅一杯に張出したタイヤ、ワイドトレッド、低い車高、見た目操安性では優等生だが、実力の方も警察の採用で、それが実証されている。

 1934年に7CV登場、直後に11CV登場…直四1991cc・56馬力は、当時では斬新なOHVで、20年後に登場した、DS19にまでという、長寿名を誇った。

 高い車高ばかりの1950年代頃迄、11CVの異様な低さは、シャシーを持たず、プロペラシャフトなしのモノコックボディーが生みだした…全長4440x全幅1670㎜と大柄なのに、1174kgと軽量だが、これもモノコックのなせる技だった。

 プロペラシャフトなしの平らな床が異様に広く、インパネからニューッと突き出した、シフトレバーも異様だった。

 昔、フランスの名優ジャン・ギャバン主演の映画で、彼が刑事の時は悪漢を追い詰めるのがシトロエン11CV。またギャング役の時は、パトカーを振り切るのもシトロエン11CVだった。

 長生きした11CVは、20年の歳月を経て1954年に、生涯の旅を終えた…変わって登場した、DS19も、姿も機構も、やはり時代を超越した、変わり種だった。

写真:11CVの後継モデルDS19。