東京証券取引所から鎧橋を渡り水天宮方面へ。ふたつめを左に曲がると、喜代川がある。

 ビルが林立する中に、たった一軒の日本家屋…建てられたのは関東大震災後だが、文化庁の有形文化財に指定されている。

 ちなみに、創業は、明治7年=1874年で、元は小網町だったから、江戸時代は、漁師町だったのだろう。

 入り口が二つある…左は座敷用、右がランチ用の椅子席だ。

 一階は座敷と椅子席で、行ったことがない二階は個室だそうだ…中の一室は、常連の渡辺淳一の小説で映画化された{化身}で、愛人/黒木瞳とのデート場所に使われたので{霧子の間}と名づけられているそうだ。

写真:座敷用入り口&椅子席。

 ここの鰻は、私のオ気にいりだ…鰻は愛知産のようで、問屋から納品されると、流れる井戸水にさらして、それまで食べた物を消化させ、身を引き締め、臭みを抜くそうだ。

 客の注文が入れば、井戸からあげて、割き、蒸すというのだから、待つのは仕方がない。

 昔は、小一時間待つのが当たり前だったが、タイムイズマネーのご時世か、老舗でも、蒸しまで終えて、注文で焼くだけという店も増えてきた。

 15分か、20分で出てくればそれだが、さらに早いと、心の準備が整わず、リズムが崩れて、困ることがある。

 松4640円・竹5280円・肝吸い380円…丁寧に焼かれた鰻は、照りがキレイで、食欲がそそられる。

 たれは、江戸の下町に合わせたのだろう、少し辛めの味つけだ。

 老人には、懐かしい昭和の頃を想い出す建物、そこで好物の鰻を食べる、至福の一時が過ごせる良き場所である…いまどき珍しくマッチがあった/2015年。