WWⅡを主導した戦勝国・米国の戦後は、世界の冨が集まったかのような好景気だった。

 もともと大型車ばかりだが、それが景気につられて、サイズと馬力の拡大競争時代に突入した。

 

 1955年「俺が米国最強」とばかりに、クライスラーから登場したのが300だった…全長5558x全幅2009㎜で300馬力…当時の米国では300は最強だった。

写真:クライスラー300最初のカタログ・ツードアハードトップ/1955年2月。

 

 停止した300のアクセルを、床まで踏み込むと後輪が空転、悲鳴をあげながら急発進…普通はすぐに消える悲鳴をそのままに、シフトアップまで。

 通常2速に入れば消えるはずの悲鳴は、さらに再開して加速を続ける。2速になっても、再開する悲鳴は初めてだった…バックミラーに、黒いタイヤのスリップ痕が、長く尾を引いていた。

 当時日本は外貨不足で、車は輸入禁止。全てが中古車だった…ある日、試乗した300は、三角窓の柱にガタが来ていた…持ち主の進駐軍将校は「急発進時にシートに背が沈むのが嫌で柱を握りフン張ってたらガタが来た」と笑っていた。

写真:300D/1958年と300G/1961年型。

 

 300だけではなく、GMもフォードも、全車種が年々拡大+馬力上昇は、しばらく続いたが、ベトナム戦の深入りが原因で、国内の景気悪化とともに競争が終わり、ダウンサイジングが始まった。

 

 が、米国人本来の気質は、大きいのが大好き…で、2004年、ク社は元気印の大型300を、よみがえらせた。

 そして、2011年には、モデルチェンジして、さらに発展させた…昔ほど大きくはないが、それでも全長5070x全幅1905㎜で、昔懐かしい広いキャビンは、これぞ米車と嬉しかくなった。

写真:クライスラー300/千葉岬町漁港。

 ATは8速。V6・3.6ℓはターボで286馬力・悲鳴は聞けなくなったが、ゼロ100粁加速は6秒と駿足だった。

 

 さて、悲鳴が楽しかった時代の300は、V8・5.4ℓで300馬力・パワーフライト型ATは2速・最高速度205粁だった。

 当時の300は、ク社の最高級車インペリアルと同じ顔をしたグリルといように、高級高価なセダンで、1957年になると、コンバーチブルも登場した…ジェト戦闘機がモチーフの、大きなテイルフィンが誇らしげ。三角窓も健在だった。

写真:ク社最高級車インペリアルと同じ顔・エンブレムに300の文字とチェッカーフラッグが/1955年型。

 

写真:1958年型のテイルフィンと三人掛けベンチシートと前席三角窓とバックミラー位置に注意。

 米国の力強さの象徴だったV型八気筒が、6ℓ➚7ℓとエスカレートした、1950~60年代の楽しさはもう味わえないが、その名残香を少しでも味わえるのが、現代版300ではないだろうか。