このような立派な蕎屋は、滅多にない…箱根にあるその蕎屋・貴賓館は、国指定の登録文化財でもある。

 その建物は、大正7年=1918年、藤田平太郎男爵の別荘として建てられた…当時箱根には、貴族や財閥当主の、別荘が沢山あったようだ。

 男爵の別荘は、そんな別荘の中でも、最高に眺望の良い場所を選んだようで、山々に映える月を眺めるためだったというから、当時の金満家の風流さが判ろうというものだ。

 また男爵は、美術品・骨董のコレクターとしても知られ、多くの所蔵品があり、東郷青児などの作品も見られるそうだ。

 また庭が素晴らしい…京都から庭師を呼び、伝統ある庭造りをさせたと聞く。

 そんな貴賓館で、ソバが食べられるのだから、ソバ好きなら一度は訪ねるべき処だと思う。

 もちろんソバは一流で、北海道北竜産だという石臼で挽いたそば粉で、熟練の職人が打つのだから、旨いに決まっている。

 細く切り揃ったソバは腰が強く、ツユは少々辛めの味つけだった。

 小松菜の煮浸しも旨かったし、デザートの桜餅も旨かった。

 また、蕎が美味しいばかりではない…料理の器が素晴らしい。陶磁器には見識不足だが、それぞれのウツワは、ナンのナニガシと言えるような、立派な物だと思われる。

 

 大正ロマン溢れる貴賓館で、風流な庭を眺め、美味しい料理に舌つづみを打ちながら食べると、ソバも上等な食べ物になったような気がしてくるから、不思議なものである。

 貴賓館は、有名な小涌園の敷地の一角にある…小涌園は、藤田観光の経営だと聞くが、ルーツをたどれば藤田財閥だから、蕎屋としては立派すぎる貴賓館というのも、納得できよう。